くちばしコンサルティング

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職能給の解説。「ウチは能力主義だ」という会社に入ってみたら年功序列だったということが起きる理由

山本遼

本エントリは以下のものの第二回目にあたります。

www.kuchibashi-consulting.work

  

今回は、第二回。能力給についてです。

 

そもそも能力給とは

能力給とは、読んで字のごとく、職務を遂行するために必要となる能力を持っているかどうかに応じて支給される給与のことを指します。 Aさんは○○という能力を持っているから××円支払う、というような形です。

 能力給は、年功序列を修正すべく生まれた考え方です。 前回のエントリにも記載しましたが、成果を上げるためには能力の向上が必要だろうという考え方から生まれています。

 

AMO理論というものが参考になります。AMO理論というのは

Performance(業績)をPとおいて、P=f(A,M,O)という算式で表されると考えられているものです。AはAbility(能力)、MはMotivation(意欲)、OはOpportunity(機会)の略で、能力と意欲と機会、そのどれか一つでも欠けたらダメという考え方。のことです 

職能給のメリット

職能給を設定することで得られるメリットは主に以下3点です。

1.能力開発への意欲を高められる
2.ポストがなくても処遇できる
3.日本の雇用慣行に合っていた 

 1.能力開発への意欲を高められる

まず一つ目は、年齢をただ重ねるだけでは能力が向上するわけではないため、従業員が能力向上をしてくれることが期待できます。この、能力向上を期待できるというのは、実は結構大きい効果があります。というのも、「成果向上したら給与を上げる」と、アウトプットに対してインセンティブを設計しても、従業員の行動に繋がらないことがあるからです。人間がやる気を出すのは「成果の出し方が判っているときだけ」ということを以前書きました。成果を上げるために必要となる能力を明示してあげることで、「この能力を身に付ければ良いのだな」ということを理解させることが出来るわけです。

 

→参考

www.kuchibashi-consulting.work

 

2.ポストがなくても処遇できる

二つ目は、ポストがなくても処遇を向上させることができると言うことです。

例えば、部長1人、課長2名、主任、平社員という組織があったとします。ポストには上限があり、上の役職に行かなければ給与が上がることがない、というルールで運用しています。 

このとき、課長の給与を上げるためには、部長になることが必要です。なので、部長が

・執行役員になるか、

・異動するか、

・辞めるか、

・新たな部が出来るか

・引きずり下ろすか

することで、部長の座をあけ、その座に潜り込まないと、課長は給与を上げられません。組織のポストに上限があるからです。しかし、どうしても部長になれなさそうだということを課長が感じてしまうと、モチベーションをあげづらくなります。例えば以下のような例です。

・執行役員になれなさそう

・異動しなさそう(例えば人事のことしか判らない人が人事部長をやっている場合、その他の部署に異動すると言うことは中々無いかも)

・辞めなさそう(終身雇用前提なら、部長が45歳なら15年待ち)

・新たな部が出来なさそう(事業拡大が見込めない会社なら、部を増やすことはなさそう)

・引きずり下ろせなさそう(物騒!)

 

しかし、能力によって評価する仕組みがあれば、「今は課長のポストしか空いていないけれど、部長も出来るぐらいの能力だから部長と同じ給与にする」というような運用が出来るわけです。
こうすることで、組織の都合には左右されず本人の能力向上を促すことができます

3.日本の雇用慣行に合っていた

職能による給与は、日本の雇用慣行に合っていたということも言えます。 日本の雇用慣行を具体的に言うと、主に「ジョブローテーション」・「ファジーな運用」です。

①ジョブローテーション

 現在でも、多くの日本企業は従業員に様々な職務を経験させることを中心としています。文系でも最初の配属は生産現場になることもあるし、30歳ぐらいまでは様々な職場を転々とさせることで、企業内に人脈を作りつつ、多くの職場の考え方を学ぶというケースは大企業でよく見られるものです。

 このとき、職務や成果で評価をしていると、異動したタイミングで一時的に役割や成果が低下することになるので、本人にとって短期的に処遇が低下することになります。しかし、全社で統一して使えるような能力で評価をしておけば、給与を下げることなく従業員を異動させることが可能になるわけです。

 

②職務給に比べ、作成手続きが比較的容易

次のエントリで記載しますが、職務給の設計は比較的難しいです。しかし、能力であれば、多少の評価誤差があっても気付きにくいし、ある程度の幅を持たせておけば運用することが可能です。そのため、「AさんとBさんと給与が違う」ことを、なんとなくごまかすことが出来るわけです。「なぁなぁ」で済ましたい日本人にマッチした考え方であると言えます。

職能給のデメリット

一方で、職能給は以下3点のデメリットがあります。

1.職務遂行能力は、潜在的能力であり、顕在能力ではない。
2.測定しづらい
3.職種横断的な同一項目(知識・技能、理解・判断力など)で表現しているため、担当職務とはかけ離れた抽象的な表現であること 

 

 職務遂行能力を定義するとき、多くの場合で「~~できる」「~~という能力を持っている」という語尾が使われます。この語尾が結構厄介で、目で見ることが出来ないわけです。そのため、人によって評価に差が出ます。同じ部内でも評価に差が生じることがしょっちゅうあります。

 また、営業・製造・研究開発・間接部門・・・などで同じ評価項目を使うため、評価項目の表現が最大公約数的になってしまって、「どの部署でもイマイチぴんと来ない」表現になりがちです。

 そして、それらが複合的に合わさって、評価しにくい項目で何となく評価することになるため、結局年功序列的な運用が成されることになるわけです。能力主義の顔をしながら、現実は年功的な給与設定となっていることによって起こる問題については、前回説明したとおりです。

 

結局、能力主義と言うと聞こえは良いけれど、測定しにくさを逆手に取られて、年功的な運用にされている、それが日本の多くの企業で見られる職能給の実態です。

能力給の修正版「行動給」

上記のように、能力給には一定のメリットがあります。しかし、顕在化していないものを測定しようとしているが為に評価基準が曖昧になる・年功序列的運用がされる・能力を上げても業績に繋がらないという問題が生じてしまっています。

 職能給の「測定しづらい」という弱点を補うことが出来るのが行動給です。能力を持っていることは前提として、きちんとその行動として発揮されているか?と言うことを判断の基準とします。そのため、考課表にも違いが表れていて

能力給を採用している企業では「~~できる」「~~という能力を持っている」という語尾が使われるのに対して、

行動給を採用している企業では「~という行動を取っている」「~している」などの語尾が使われます。

 要は顕在化している(外から見て測定出来るかどうか)と言うことがポイントです。

 

行動給はモチベーションも含んでいる

 また、AMO理論に戻ると

Performance(業績)はAbility(能力)、Motivation(意欲)、Opportunity(機会)のどれか一つでも欠けたらダメという考え方。

行動給を上げる為には、能力があるだけではダメで、外から見て測定出来る行動として発揮していなければならないので、最低限のモチベーションはあるだろうということも測定出来るわけです。

 

行動給の弱点

 しかし、そんな行動給にも、やっぱり弱点は残ります。行動が業績に繋がらない場合・行動を発揮出来ない場合の二つです。

 まず一つ目が、みんながその行動を取ったとしても、業績に繋がらないことがある、という点です。例えば、どれだけリーダーシップを発揮しても、業績に繋がらないときというのはどうしてもあります。それでも、行動で評価をすると言うことを軸にした以上、行動が取れているなら評価するしかありません。
 行動給を支払う、つまり行動で評価すると言うことを決めるときは、「高い成果を出している人の行動(コンピテンシー)をみんなが出来れば高い成果が出せるはず」というような考えに基づいています。

 そのため、インタビューをしたりアンケート調査を行なうなどして帰納法的に考えたり、ベストな職務の流れを考えてから行動に落とす演繹法的に考えたりと、様々な方法で設計しますが、それでも環境や仕事の流れが変われば求められる行動が変わってしまうので、こまめに見直すことが必要になるわけです。

  また、「行動を発揮するための機会が無い」場合にも従業員からの不満は高まります。例えばリーダーシップを発揮した行動を求めているのに、部下がいないとか言う状況などがそれに当たります。特に中小企業の25-26歳ぐらいの人だと、部署に誰も入ってこないので、いつまでたっても下っ端なのに、リーダーシップとか誰に発揮するんだよっていう話が出て来たりします。

 

今日のまとめ

職業遂行能力に応じて支払われる給与は
・能力開発を促進し、ポストがなくても給与が上げられるメリットがある一方
・測定しにくいから、結局年齢給のような使われ方をしてしまっている。
・それに対応するために「顕在化した能力」である行動で評価するようになってきている。
・ただし、環境変化に応じて、項目を都度見直す必要がある