くちばしコンサルティング

経営戦略を実現する、運用しやすい人事制度構築が得意です。

年齢給の解説。+ 制度上は年齢給がないのに、年齢給の亜種が勝手に生まれて会社を傾ける話。

山本遼

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前回エントリにて、「給与支給項目に会社が従業員に求めるものの基本的な考え方が判る」と書きました。

www.kuchibashi-consulting.work

今回は、その第一回。年齢給についてです。

 

そもそも年齢給とは

 年齢給は、年齢に対して給料を支払うというものです。○歳には○万円、と言うのが具体的に決まっているようなイメージです。最近はかなり見られなくなってきましたが、昔はよくありました。(現在は約3割ほどの企業で導入されているに留まります)

決まり方は以下のようなイメージです。

「大学卒業したての“ふつうの”22歳は、20万円ぐらいでいいだろう」

「25歳ぐらいになったら“ふつうは”結婚するだろうから、少し給与を上げてやらないと」

「30歳になったら“ふつうは”子供もひとりやふたり作ってるだろうから、給与を上げてやらないと」

「40歳ぐらいになったら子供も中学入学が近いんだから物入りになるだろう、給与をあげてやらないと」

・・・ 

 こういう“ふつうの”人生シナリオ(昭和的な人生シナリオ)に基づいて、生活していけるだけの給料を支払ってやらねばならない、という考え方に基づいています。「生活ステージに応じて給料を払うから一生会社に居て欲しい」ということです。

 一生生活を見るぞということが暗黙の了解になっていたんですね。一方で、年齢を重ねていると言うことはある程度能力も成長していくだろうという考えに基づいて支払われてきました。

 

 ちなみに、年齢給的な考え方が始まったのは1960年頃と言われています。高度経済成長が始まったあたりで、企業が安定的に成長し、(若年)労働力も豊富に存在していたので、勤続年数を技能伸長の指標としていたためです。(途中退職や中途採用があまりなく、実質的に年齢とイコールになる) 

 

年齢給が不人気になったわけ

 年齢給を入れている会社はかなり少なくなってきています。理由は3つあります。

 

そもそも“ふつうの”人生を歩む人が減った

 そもそも“ふつう”の人生を歩む人はかなり減っているということです。25歳で結婚・30歳までに2子誕生・・・という人生を歩んでいる人がどれだけ居るかという話です。これも知り合いをざっと探して貰えばいいと思いますが、恐らく多数派にはなっていないと思います。僕もこの二つどちらも該当していません。

 

会社が求めるのは年齢ではない

 「年を取ったからといって仕事が出来るようになるわけではない」ですよね。あなたが職場でばっと席を立ってあたりを見渡せば、自分より能力や成果の劣った年長者なんてすぐに見つけることが出来るでしょう。 そして、あなたは無意識に自分よりデキる後輩の方から目を逸らしていた筈です。

 

年齢給による悪影響が大きい

 そして、年齢給を入れていると従業員の意識に悪影響をもたらします。それは、「能力や成果を上げずとも給与が上がる」からです。「生存」すなわち「会社に居つづける」ことがモチベーションになるわけです。

 そうなると、会社生活の中でするべきことは、「成果を上げる」のではなく「居心地を良くする」ことになるわけです。

 それは例えば人間関係だったりするのかも知れません。上司とぶつからない、同僚とぶつからない、部下とぶつからない。それが行動の軸になります。また、仕事をするにしても「頑張っている風に見せる」ことが重要になります。周りからの評価を下げるわけにはいかないからです。

 突出して成果を出すわけではなく・かといってサボりすぎない。そんなバランス感覚が必要になるわけです。

それでも根強い年齢給肯定派

 そんな年齢給ですが、やはり今でも3割の企業は入れています。年齢給を是とする意見についても紹介しておきます。

 年齢給を導入することのメリットは「従業員が生活の予定を立てやすくなる」ということにあります。何歳になれば幾らというのが判るので、生活プランを立てやすくなるわけです。30歳で額面30万円だから、7-8万円程度の家賃の家に住めるな、とかいうことが計算できるわけです。

 また、「報酬決定が楽」ということも言えます。何歳で幾らと言うことが判っているので、毎年毎年人事考課をする心理的・業務的負荷から解放されます。
 
 その他の理由として、割とオーナー系企業に多いですが、未だに経営者が、従業員には“ふつうの”人生を歩ませてあげなければならないと思っているケースが結構あります。

 

能力は年齢に応じて上がるから、年齢給は是?

 「能力は年齢に応じて上がるから、年齢給でも良いのでは?」と仰る方が居ますが、これは完全に的外れといえます。「なら能力に応じて給与を支払えば良いじゃないですか」という反論につきます。 

 もし仮に年齢に比例して能力が上がるということがあったとしても、企業として欲しいのが能力だったとするならば、

給与→能力 

  ではなく

給与→能力=年齢

 という、無駄な変数を介在させると、制度設定の意図が上手く伝わらなくなります。悪手です。

 

年齢給はなくした筈なのに・・・

 最後に、「年齢給」という名前でなく、能力給や職責給という名前が付いていたとしても、年齢給的な要素になってしまうケースが結構あるのでお伝えしておきます。

 「評価が最低だったとしても、毎年○円は昇給する」というような設計や運用になっている場合、それは年齢給と同じ意味になります

 この場合、結局年齢給と同じようにいくらかずつ昇給していくことになります。努力してもしなくても、生存するだけで給与が上がる。これでは名称の違いこそあれ年齢給と違いません。

 

人事担当者と現場のギャップが原因に

 年齢給に反対していて、上記のことを理解している人事担当者は制度で「最低評価の場合は昇給0」と制度設計しますが、「評価が悪くても多少昇給させないとかわいそうだ」と考えていくらかでも昇給させようとする管理職が人事部に対して働き掛けてくることはままあります。

 

放っておくと評価制度が崩壊することもある

 現場管理職からの「昇給しないのはかわいそうだ」という考えに対し、人事部員がまるで石田三成のごとき厳格さで退けた先に待っているのは、更なる問題行動であったりします。

 次に起こるのは、現場管理職が昇給しない人を「昇格させる」とか「最低評価を避ける」という行動をとることです。「昇給させることありき」で評価をしはじめるわけです。

 評価をする前から最低評価が付かないと言うことが最初から決定してしまっているということが起きるわけです。年齢給的な考え方を退けた結果、評価制度が崩壊し始めるんですね。

 例えば、相対評価の割合を決めている(SABCDの5段階で評価をすることにしていて、部署毎に平均はBになるように調整させる等)ような会社の場合、D評価が付かなくなるという現象が起きることで、Sが付く人が居なくなります。それによって、「どれだけ頑張ってもAどまり」ということが周知されてしまうんですね。 すると、今度はエース社員のモチベーションが低下し、S評価を取れるぐらいの成績が出せるにも関わらず「A評価が取れそうな成績ならそれ以上上を目指さない」という現象が起き得ます。

 エースの給与はあまり上がらず、活躍をしていないベテラン層の給与が上がる。それによって「ハイパフォーマーは低い給与に愛想を尽かして退職」「成果が低いのに給与が高い人が残る」ことが起こり、慌てて給与を適正水準に戻そうとしたら組合が騒ぎ出す、という地獄のはじまりはじまり・・・(そしてこれが珍しい話じゃないというのが辛いところ)

 

制度を守るのは人事部のあなた!

年齢給的な要素を廃止して会社を目指す方向に導くためには、人事部員の覚悟と粘り強い啓蒙活動が重要になります。

どんなに自社に適した人事制度を作っても、流された運用を行なうことで制度の根幹自体が崩れてしまうことがあります。これは、言えば判ってくれる管理職が多いです。ただし、判るというのは頭で理解するという意味です。でも、現場の管理職には別の動機があります。「だって俺たち年齢は上だし」「昇給0を伝えるのってシンドイし」「俺の部で一人年功”っぽい”ことをしたって、全体に影響は与えないさ」 

今日のまとめ

・年齢給はステレオタイプな昭和型人生にはマッチしており、給与額決定も容易。
・年齢給は従業員のモチベーションに繋がりづらいため、業績達成には不向き。
・運用次第では年齢給が知らず知らずのうちに発生することがある。
 鍵を握るのは人事担当者