職務給の解説。 シンプルなようで設計が難しい。でもこれから必要性が増すかも。
本エントリは以下のものの第三回目にあたります。
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今回は職務給についてです。
そもそも職務給とは
職務給はその個人が担当している職務のレベルによって給与額が変わる仕組みです。職務の価値に対して、評価項目を設定し、それぞれに対して数値で測定して格付けして職務等級を設定します。その職務等級に応じて給与を決めるという仕組みです。営業部長は80万円/月とか、営業課長は50万円/月というのを設定しておき、Aさんは営業部長だから80万円、Bさんは営業課長だから50万円/月を支払う、というように決まります。
職務の評価の仕方で有名な方法
職務の評価の仕方で有名なものにヘイグループが行なっているヘイシステムというものがあります。
職務の遂行には①知識・経験 ②問題解決 ③達成責任 の3つが必要であるという考え方に基づいて、それらを更に細かく分解した上で数値化します。
具体的には、上記の①②③を以下の8つの分類に分けます。
これについては知りたい人だけで大丈夫です。この内容はとばしてメリットデメリットのところだけ読んでも判ります。
①知識・経験
・その職務には、どれぐらいの知識・経験が必要か
・そのポジションでマネジメントする職務の幅
・そのポジションで必要になるコミュニケーション能力
②問題解決
・そのポジションで考えるべきテーマの視座の高さはどれぐらいか
・そのポジションで考えるべき難易度はどのぐらいか
③達成責任
・どのレベルの意思決定が出来るか
・どの程度の金銭的なアウトプットが求められるか
・成果に対してどのような関わり方をするか?
そして、これらに対して、例えば以下のような評価軸で判断するわけです。
(知識・経験の場合)
1.定型業務レベル
2.少し経験するか、少し訓練を受ければ出来るレベル
3.進め方を工夫できる
4.熟練レベル
5.専門化レベル
6.各業務について深く・広く知っている
7.社内で有名な専門家クラス
8.その分野で社外からも知られているレベル
で、以下のような表にして職務のレベルを分析して、その職務は何点かを計算します。そしてそれを給与に反映するわけです。
職務給のメリット
職務給を会社に導入することのメリットは、主に以下の5つです。
1.同一労働同一賃金が実現される
2.専門家育成には合理的
3.職務内容が明確になる
4.人件費が高くなりすぎない
1.同一労働同一賃金が実現される
一つ目は、同一労働同一賃金が実現されるということです。○○という仕事に対しては×円というのを決めてから人をあてはめるからです。AさんもBさんも同じ“営業課長”なのに、Aさんの方が給与が高い、と言うことは基本的に起こり得ません。職能給だと、Aさんの方がBさんより能力が高いなら、二人とも課長でもAさんの方が給与が高いということが起こります。
また、それにより中途採用をしやすくなると言うことも言えます。他社で課長の給与が○万円らしい、ということが判れば、自社の課長の給与をそれぐらいに設定すれば良いからです。
2.専門家育成には合理的
二つ目は、専門家育成に合理的な方法だと言うことです。基本的に上の職務に上がらなければ給与が上がらないので、みんなその職務の中で上を目指すようになります。他の誰よりも専門性を獲得し、上の職務に上がらなければ給与増が見込めないからです。
これはデメリットの方にも出て来ますが、逆にローテーションを嫌がるということにも効いてきたりはします。
3.職務内容が明確になる
三つ目は、その職務に何をどれぐらいのレベルで期待するか、ということが明確になります。営業部長って何をする仕事?とかいうことが判るようになるわけです。また、職務等級を作っていく課程で副次的に得られる成果でもありますが、「この等級要る?」というようなことに気付くことが出来ます。例えば“課長補佐”と“課長代理”が共存しているような会社で、職務の測定をしてみたら点数に差が付かなかった、なんなら“係長”ともそんなに点数に差が付かなかった・・・ということはよくあることです。
じゃあ、係長と課長代理に給与差を設けておくことが正しいのか?と言う議論が数値を使ってできるようになるわけです。飲みの席での「課長代理なんて仕事やってねぇじゃねーかよぉ!」とかいうのとは訳がちがうんですね。
また、同じ課長でも、営業課長と製造課長のどっちが大変なのか、ということも判ります。それによって、会社にとって重要度の高いポジションを高く処遇することが出来るようになるわけです。よく、「○部の部長は楽な仕事してるのに▲部の部長はシンドイから不公平じゃないか!」とかいう話はよくありますよね。
4.人件費が高くなりすぎない
最後は、企業にとってのメリットです。ポジションに対して給与を決めてしまうので、組織の数が増えなければ人件費総額を増やさなくて済みます。職能給だと、従業員が能力開発を“してしまったら”給与を上げざるを得ない訳です。前回説明したとおり、課長の仕事をしている人でも、部長級の能力を持っていると思われたら部長と同じ給与を払うことになるからです。
*実際は職能給を入れている会社でも、昇給原資を絞ったりして多少の調整をしたりしますが、職務給ほど納得感を持たせた上で人件費をコントロールすることは難しい。
デメリット
一方で、職務給のデメリットは以下3つです。
1.組織が硬直化しやすい
2.ポスト不足の対応が困難・そのため能力向上モチベーションに繋がりづらい
3.運用が難しい
1.組織が硬直化しやすい
まず一つ目は、組織が硬直化しやすい、ということです。異動がしにくくなると言うことです。職務給を導入していると、その職務に対して給与が支払われることになるため、基本的に他部署に異動すると言うことは今まで自分が積み上げてきた能力をリセットしてしまうことになるからです。例えば、人事だけでやってきた人が人事課長になっていたとして、経理に異動となると専門性がないから経理のイチ担当者になるわけです。そうなると、給与が下がってしまうので経理には行きたがりません。
転職をするときに全く未経験の職種に行くときは、だいたい給与水準が下がりますよね。それが社内異動でも起きえると言うことです。職務給は市場の原理が色濃く出やすいんです。
2.ポスト不足の対応が困難・そのため能力向上モチベーションに繋がりづらい
二つ目として、ポスト不足に対応出来ないと言うことがあげられます。職能給の所でも書きましたが、
例えば、部長1人、課長2名、主任、平社員という組織があったとします。ポストには上限があり、上の役職に行かなければ給与が上がることがない、というルールで運用しています。
このとき、課長の給与を上げるためには、部長になることが必要です。なので、部長が
・執行役員になるか、
・異動するか、
・辞めるか、
・新たな部が出来るか
・引きずり下ろすか
することで、部長の座をあけ、その座に潜り込まないと、課長は給与を上げられません。組織のポストに上限があるからです。しかし、どうしても部長になれなさそうだということを課長が感じてしまうと、モチベーションをあげづらくなります。例えば以下のような例です。
・執行役員になれなさそう
・異動しなさそう(例えば人事のことしか判らない人が人事部長をやっている場合、その他の部署に異動すると言うことは中々無いかも)
・辞めなさそう(終身雇用前提なら、部長が45歳なら15年待ち)
・新たな部が出来なさそう(事業拡大が見込めない会社なら、部を増やすことはなさそう)
・引きずり下ろせなさそう(物騒!)
というようなことが起きるわけです。
会社にとって必要なポスト(≒役職)は決まっているのに、特定の世代(団塊の世代やバブル世代など)は入社が多いということがあります。その世代が「そろそろ課長になりたいな」と思っても、ポストがなければ昇給することがありません。その中の一人だけが課長になることができるわけです。だから、残りの人たちの中にはふてくされる人が居てもおかしくありません。
3.運用が難しい
最後が、設計と運用の難しさです。冒頭のヘイシステムの説明を読んで「うげっ!」と思われたでしょうが、それが正直な気持ちでOKです。 とにかく設計と運用が難しいんです。特に、なあなあで済ましたくなる日本企業では割とアレルギーが出やすいところです。また、新しい職務が出来たら職務測定を行なわなければならなくなります。これが結構な負担になるんですね。
日本企業では導入されづらいが、これからは必要になる
職務等級の制度は、個人的に結構好きな制度ですが、それでも日本企業での導入はあまり進んでいません。おおよそ10-20%程度の導入に留まります。(職能は50%ぐらい)
それは、やっぱりメリットよりデメリットのところが注目されてしまいがちだからです。ローテーションさせたいし、あやふやにしておきたいし・・・というところですね。
しかし、日本企業が今直面している「既存の事業が縮小期に入っている状況で、新たな収益の柱を見つけなければならない」という状況では、職務等級の中途採用のしやすさ、というのが結構効いてきます。
あと、海外展開の必要性も高まってきている今、外国では割と一般的な職務等級制度を入れておくことで、海外での人材獲得がしやすくなることも見落とせないメリットでもあります。
今日のまとめ
・職務給は仕事の重要度・困難度や責任の重さに寄って決められ、市場価格とマッチさせやすいメリットがある一方
・ローテーションに向かないことや、能力向上を諦める人も出て来てしまうというデメリットがある。
・ただし、今後の企業の成長の為には避けて通れない考え方かもしれない
難しい話をしたときは、うちの猫の写真を載っけておきます。
いつも家で仕事するときはこんな感じ。冬って良いですね。