くちばしコンサルティング

経営戦略を実現する、運用しやすい人事制度構築が得意です。

人事制度運用担当に必要な9つの行動・能力・考え方

山本遼

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 人事制度運用担当者に必要となる要素を9つにまとめました。あなたが経営層であれば人事制度運用担当者を任命するときに、あなたが人事制度担当者であれば自身のキャリアアップの指針として活用ください。

  今回の記事の構成は、人事制度を構築する際に行なう「業務で求められるゴール」から逆算する手法を採用しています。第一章として、人事制度運用という業務で何が求められるのかを解説した後、第二章としてそれぞれを実現するためにどのような能力が必要になるのか、ということを纏めています。

 

人事制度運用業務におけるゴール


 人事制度運用業務の主な要素(人事制度運用フェイズにおけるゴール)は4種類あります。ただし、ゴールと言っても戦略や制度のように一度作ればしばらくOKというものではなく、このゴールを維持し続けることが求められます。

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1.対象者に人事制度を守らせる

 目標設定や人事考課、給与決定など人事制度が十分活用されるよう、現場にアナウンス・督促を行い、提出時期を守らせるといった業務がこれにあたります。

 人事制度は構築しただけでは意味がありません。人事制度運用の最低限度といった位置づけになります。

 目標管理制度で特によく見られますが、制度を導入した後目標設定する時期は自由・提出も義務付けないという運用ルールを設定をした企業の殆どは制度が有名無実化します。

 そのため、現場現場での個別の事情はさておき、確実に実行されるようにシステムの設定・データメンテナンスや人事考課スケジュールの通知などを行なう必要があります。

 また、人事制度のフローや要点・意義などの丁寧な落とし込み現場からもたらされた疑問の解消といったケアを行なう必要があります。

 

2.対象者に人事制度が期待する質を守らせる

 人事制度の理解と腹落ち・制度を守ることのメリットを伝える・考課者の任免・教育などがこれにあたります。

 質が守られていない状態というのは「人事が提出を要求するから対応しているが、実が伴っていない状態」ですね。これは特に人事考課で見られます。

 例えば「好き嫌いなどの考課エラーを除外するために、考課項目別に評価をつけ、最後に最終評価をつけてください」というルールを課しているのに、考課者が頭の中で何となく最終評価を決めた後に、つじつまを合わせるように個別評価を適当につけるといったようなケースは多くの企業で見られます。

 また、人事考課のフィードバック面談を適当に行なったり、目標設定を「早く一人前になれるように頑張る」みたいな目標設定を許したり・・・といったことが質の守られていない状態になります。
 基本対応としては制度の意義・意図を理解・納得させるということが基本となります。そのために考課者研修を行なうのは非常に一般的な方法ですが、企業の中に考課者研修を出来るだけの人材がいない、という問題もよくあります。そのため、「人事考課の案内」などに意義を記載しておくことが現実的な対応となります。その際のポイントとして、書かなければ当然伝わる可能性は0ですが、「考課案内に長々と書きすぎると全く読んでくれなくなる」ということにも留意が必要です。ポイントを押さえつつ、短くとどめる等良い塩梅にとどめておくことが重要となるでしょう。
 更に効果を高めるための手法として、実行している企業は多くありませんが、人事制度の運用状況を確認するためのアンケートを定期的に実施することをお勧めします。(特に被考課者を対象に行なうと効果的)これにより、考課者別に目標設定がちゃんと出来ているか・人事考課の妥当性があるか、といったことを測定するわけです。

 

3.人事制度運用担当でしか出来ない業務を遂行する

 昇給・賞与原資決定、等級毎人数設定、異動決定やシステム対応など、人事制度を回す上で事業部がし得ない分析や判断を行なう業務がこれにあたります。

 これに関してはやらなければ回らないので多くの企業がやって”は”いることと思います。しかし、戦略との連携が取れていないケースは多くあります。例えば「去年も昇給率は2%だったから今年も2%」「これまでずっと賞与は3ヶ月だったから今年も3ヶ月」等、経営環境や業績が変わっても過去からの継続で意思決定しているケースは多いです。(これも現状維持型の戦略と言えば言えますが)また、現場からの昇格申請に対して、人事部で是非の判断が出来ないから殆ど通すというケースも多くあります。

 

4.人事制度のマイナーチェンジ・将来の再構築のための情報収集

 最後に、人事制度のマイナーチェンジや将来の再構築のための情報収集が挙げられます。日々現場からよせられる相談やクレームに対応し、蓄積するなどの業務がこれにあたります。そもそも、人事制度は導入時点で精度が100点であることはほぼありません。戦略が変われば見直すべきものですし、現場に定着しなければピボットを掛けて別のアプローチを検討する必要があるかも知れません。常にアンテナを張り続けておく必要があるわけです。
 現場からの相談やクレームに関しては、むげに扱うのではなく、心理的に寄り添って話を聞くことで人事と現場との一体感は高まっていく事が期待されます。一方で、「言われたことをそのまま対応する」というのはお勧めしません。

 例えば営業部から「賞与を個人業績に連動するようにして欲しい」という声が上がるのはよくあることですが、そのまま対応すると製造部や間接部門から「業績の良し悪しの測定が難しいので業績ではなく行動で評価するようにして欲しい」という別な声が上がるようになります。そのため、全体支店を持って対応の是非を検討する必要があるわけです。「親身に聞くが客観的に判断する」姿勢は欠かせないものと言えます。

 

人事制度運用担当に必要な9つの行動・能力・考え方

 「上記のような業務を遂行し、人事制度構築時に期待していた成果を出すことが求められる」 という職務の性質を実現するためには、人事制度運用担当者には以下のようなスキルやコンピテンシーが必要になりそうです。

 ※本記事では能力という書き方に統合しています。

1.人事に関する専門知識

・自社人事制度の理解(内容と意義)
・自社が採用していない人事制度に対する知識(それらのメリデメは知っている上で、それでも自社制度を使っているのですと言い切れるレベル)

 

 まず一つ目の自社制度の理解については言うまでもなく、業務を遂行するために把握しておく必要があります。流石に、現在の人事制度の話をしたときに「あれ、ウチって目標管理制度入れてたっけ」というレベルで把握出来ていない方はまだ見たことがありませんが、「調整手当ってどういう条件で支払われているのですか」といったところまで聞くと、詰まってしまうケースがあります。
 二つ目の、自社が採用していない人事制度についての知識は、日々の業務では必要になるケースがあまり多くないので優先順位は下にされがちですが、こちらもかなり重要になります。まず、現場からの問合せに回答出来なくなるということ。

 例えば「何故ウチは360度評価を入れないのですか。他社では入れていると聞きますが」等の意見がもたらされたときに「360度評価って・・・何?」となっていては話にならないわけです。

 また、自社の人事制度を見直すときの選択肢が狭まってしまうことになります。等級の作り方を職能型しか知らないと、職務型の方が適しているにもかかわらず職能型の等級を設計してしまうことになるでしょう。

 

2.経営・事業方針に関する知識

・経営方針の理解
・個別事業の理解

 人事制度運用業務は、経営層や現場管理職と会話する機会が多い職務のため、経営方針・個別事業に関する理解が出来ていないと信頼関係の構築は難しくなります。

 また、制度変更の時に経営戦略と連動した制度構築が出来ません。それにより制度と戦略が乖離してしまい、現場に使ってもらえない・制度を100%利活用しても業績が向上しない などの不幸が起きることが予想されます。

 

3.スケジュール管理力

・長期間に亘るスケジュール作成と遂行
・間接的にスケジュールを守らせるために、業務の進捗状況をモニタして対処するスキル(督促する)

 人事制度は、割と期間の長い業務スケジュールを引く必要がある業務です。「前年4月~本年3月末までの業績を4月に評価・5月に昇給・6月に賞与支給」というスケジュールで動いている企業ならば、

・2月末頃全体スケジュールの策定と春闘

・3月は評価用の準備と昇給賞与原資計算

・4月は評価進捗のモニタリング

・5月に評価を踏まえ報酬の決定と昇給額の決定

 →人事システムへの反映と労務と経理への連絡

・6月は賞与額決定・・・・ 

と目白押しになります。
 そのため、業務のゴール及び各ステップにおいて「何が・どこまで出来ていなければならないか」などの連動を意識しながらスケジュールを作成・コントロールしていくことが求められます。

 また、「自身だけで業務が完結できない」という宿命も背負っているため、間接的な業務コントロールが重要となるわけです。(昇給賞与原資決定は経営層・経理・労働組合が前工程。人事評価は現場が前工程のため、督促が必要となるケースあるいはパワーバランス上対応が不可能で人事制度運用側が短納期対応を強いられることとなるケースが多いでしょう。また、自身の業務完結後に給与支払いのための連絡・評価報酬の決定結果通知などのずらせない後工程があるということも想定されます)

 

4.従業員とのコミュニケーション力

・従業員ニーズ(何に困っているのか)把握
・従業員との関係構築(部門と信頼関係を築く)
・従業員の言うことを聞きすぎない能力。(全体最適のために、個別の意見を敢えて無視するべきときがある)メンタルタフネスみたいな能力。

 従業員とのコミュニケーションも欠かせません。従業員が人事考課において何に困っているのかを知る必要があります。また、そのために日常の信頼関係構築が重要となります。

 一方で、従業員の言うことを聞きすぎると制度が崩壊するので、質問への対応として完結させるのか・意見として頂戴しておくのか・マイナーチェンジとして対応するのかについて、都度判断が求められます。

 採用のように社外の人と接する機会が多いわけでも・教育担当のように人前でのプレゼンが頻繁に求められるわけでもありませんが、日常会話レベルでのコミュニケーションは必要になります。

 

5.ITリテラシー

・自社人事システムの活用
・データ分析のための表計算ソフトなどのスキル

 人事制度を効率的に遂行得るために、ITリテラシーも求められます。自社人事システムを利活用、あるいは設計・改修(プログラムは必要なくても、業者に対してRFPを書ける程度)が出来ることが求められます。

 また、データを抽出後分析を行なう必要があると言うことを考えると、表計算ソフトは必須です。AccessやDBなど扱えると活躍の幅が広がるかも知れません。

 

6.改善能力

・自社制度を客観的に見てPDCAを回せる
・自社戦略実現のため、制度を抜本的に見直すことが出来る。

 最後に、やや抽象的になりますが、自社の人事制度の改善・改革のための能力も求められます。そのためには「自社・自身の考え方はもしかしたら間違っているかも知れない」ということを常に意識し、改善のための手法を考え続ける必要があります。

 

・・・マインド編・・・

 

7.間接的に成果を出すことを楽しめるマインド

 人事制度の運用担当という業務では、営業や製造のように目の前で成果が出るということはほぼありません。考課者訓練をしても、人事の目の届かないところでひっそりと指導効果が高まるぐらいでしょう。指導効果が高まったとしても即成果向上すると言うこともなく、数ヶ月・一年ぐらい掛けて徐々に変わっていくぐらいでしょうし、その変化が人事によるものなのか、単に景気が良くなって業績が向上したのか・・・さえ測定出来ないことも殆どです。
 不可視・非即時的・測定が容易でないからといって人事制度運用の効果が無いわけではありません。間接的に仕組みを作るという行為は企業にとって欠かせないことです。しかし、この考え方にどうしても馴染めない人は居ます。(どちらが偉いというわけではない)

 間接的に成果を出すという行為を楽しめるかどうかは、人事制度運用担当に向いているか否かを決めるために非常に大きな要素を占めています。

 

8.謙虚さ

 「謙虚さ」は、一般的な謙虚さと知的謙虚さとの二種類ありますが、人事制度運用担当には双方必要となります。
 まずは一般的な謙虚さについて。人事制度運用担当になると、日常業務で会話をする対象が、主に経営層や管理職層となります。そのため、人事制度運用担当部署の一般社員の中には「偉い人たちに名前を覚えられ、よく話をする自分は、実は偉いのでは?」と錯覚してしまうケースが見られます。
 次に、知的謙虚さについて。これは、自社の採用していない人事制度に関する知識を収集したり、制度を改定したりするときに必要となります。自身の知っていることだけで満足せず、更により良い方法が無いかを考え続けるという知識に対する謙虚さが重要となるわけです。

 

3.口の堅さ

 最後に。言わずもがなですが、口の堅さは何よりも重要になります。恐らく人事部の中でも人事部長を除けば最も多くの情報にアクセスできる(しなければならない)職務だからです。そのため、個人の給与や評価履歴といった従業員の個人情報はほぼ全て把握できるでしょう。(懲戒処分について実際に担当していなくても、評価や報酬に反映するときに知ることになる)また、それに加えて個別の悩み相談・事業に関する相談と多岐にわたる情報も保有することになります。
 ※ちなみに、人事制度の運用担当者になると、他部署の同期などから「○○さんの給料ナンボなん?」「俺の賞与1桁足しといてくれへん?」などと言われるという宿命を背負います。現状ベストな回答方法は不明です。「判りました!間違えて賞与1桁減らしてしまったらごめんなさいね!」ぐらいでしょうか。(なんでこういうこと言ってくる人は関西弁なんでしょう)

 

 

まとめ

そんなわけで、人事制度運用フェイズにおける業務と必要な能力をまとめてみました。各業務と能力の対応は以下のようになります。人事制度運用担当者の任命に使うも良し、部下指導に使うも良しですので是非ご活用ください。

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当社では人事制度の運用アドバイスも行なっております。もちろん制度の再構築や評価者研修のご相談にも乗れますので、是非ご連絡ください。

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