くちばしコンサルティング

経営戦略を実現する、運用しやすい人事制度構築が得意です。

成果給の解説。 独立心の強い人には喜ばれる一方、これだけで組織を支えるのは難しい仕組み

山本遼

本エントリは以下の特集の第四回目にあたります。

 

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今回は、成果給についてです。

そもそも成果給とは

成果給は、個人や組織が出した成果に応じて給与が変動するという仕組みです。売上高とか、受注高とかで決まるようなイメージですね。なので、営業系職種とかでは良く見られます。

 給与と完全連動させているという歩合制の給与であることもあれば、ある程度で頭打ちになるという仕組みを取ったりしていることもあります。

 上限を設定しないことは企業と本人の同意次第で自由ですが、ただし完全歩合制という表現をしていたとしても、働いた時間分×最低賃金の時給は支払う必要があります。

成果給のメリット

成果給のメリットは以下の通りです。

1.判りやすく、公平感・納得感に繋がりやすい

 まず、本人の成果に従って給与が計算される(多くは一次関数ぐらいのレベル)ため、本人にとって給与が計算しやすい仕組みになります。

 「アイツの方が給料が高いのは、アイツの方が俺よりたくさん売ったからだ」ということは、悔しいと思う気持ちこそあれ、制度に納得しているのなら「そんなもんかな」と思うことが出来るわけです。

2.業績達成意欲が高まりやすい

 また、非常にシンプルな計算方法で出来ている為、成果を上げれば良いということは明確に伝わります。そのため、従業員は成果達成の為の意欲を高く持つことになります。雇用関係にあるとか言いながら、最も「個人事業主」感が強くなると言えます。「頑張ったから評価してくれ?ヌルいこと言ってんじゃないよ」ということですね。

3.企業にとっても判りやすく、計算しやすい

 企業にとっても、配分方法さえ間違わなければ人件費で赤字になることを回避しやすい仕組みであると言えます。たとえ、平均年収500万円ぐらいの会社の中に、3000万円のプレーヤーがいたとしても、500万の人たちが2000万円稼いでいて、3000万円の人が1億円稼いでいるなら、(収益上は)特に問題ありません。
 職能給・職務給・年齢給では、人件費上昇の割に業績が上がらない、ということも起こり得ます。

 

デメリット

成果給のデメリットは、主に以下の5つです。
1.短期的になりすぎる

2.組織行動に繋がりにくい

3.人が辞めやすい

4.行動に繋がらない人も居る

5.給与計算担当者の負荷が重い

1.短期的になりすぎる

 一つ目は、完全に成果だけで評価されると、短期的な視点が強くなりすぎてしまうことです。いくら種まきが必要だと言うことを理解させても、今月の給与が大幅に減るとなると、その種を食べざるを得ません。成績が振るわないときに短期的な視点に立ってしまって、すぐに得られる果実に飛びついてしまうわけです。そのため、成果が出るまで数年かかるようなプロジェクトに携わりたがらないなどの現象が起きます。
 また、成績さえ上げれば良い、という考えが強く打ち出されてしまうと、コンプライアンス意識の低下をも招いてしまうことに繋がります。

2.組織行動に繋がりにくい

 二つ目は、組織としての行動に繋がりにくいことです。それが給与に繋がらないのなら、誰が人材育成などするというのでしょう。また、ノウハウの共有も滞りやすくなります。個人の知識は個人のもののまま、と言うことが起きるわけです。
 また、育成やノウハウ共有がされないことによって管理職の育成なども難しくなります。管理職からは職務給に変わる、という仕組みを取っている会社もありますが、これをするとエースは管理職に移ったときに給与が低下することを嫌がる例が多く見られます。

 そして、営業成績がトップでない人が管理職になると「何故あの人が俺の上司に?」という不満が生じてしまうわけです。 成果給を導入していると「たくさん成果を出す奴が偉い」という考えが強く印象付いてしまうため、「俺より業績の悪いアイツが管理職になったけど、なんで俺がアイツの言うこと聞かなきゃならないんだ」という不満が生まれやすいわけです。
 そこで、会社としては「マネージャーはマネージャー、プレーヤーはプレーヤーだから、役割の違いを理解するように」などの研修を行ないたがりますが、成果給で働くことを好む人たちは組織管理の研修すら嫌がることが多いです。だって組織管理の研修を受けても個人の業績に繋がらないからですね。

 

 また、異動をかなり嫌がるようになるので組織も硬直化します。職務に対して給与が支払われている場合なら、営業担当者が大阪支店から広島支店に変わることも特に文句はないでしょうが、成果に対して給与が支払われている場合、職種が同じであっても地域が変わると成果がしばらく落ちることになるので、相当な抵抗を受けることになります。

3.人が辞めやすい

 三つ目は、退職しやすくなることです。成果が出ない人や、ある程度の年齢になって家庭を持った人などは成果給を避けるようになります。(前者については計画的に辞めさせているケースもあります)

 また、同業他社などから「より高い歩合で」誘われたときにも転職してしまいやすくなります。

4.行動に繋がらない人も居る

 当ブログでも何回か書いていますが、アウトプットにインセンティブを用意しても「どうやれば成果が出せるか」ということが判らない人たちにとっては行動に繋がりません。

 そのため、成果給の導入時には、どうやれば成果が出せそうか、ということも合わせて伝えて上げる必要があります。

5.給与計算担当者の負荷が重い

 最後は給与計算(社会保険)担当者の負荷が重たくなりすぎることです。人事担当者ならわかることでしょうが、毎月給与が変動すると極めて手続きが大変です。そのため、毎月給与改定することはあまり現実的ではありません。そのため、賞与で一括払いにするとか、年次の改定にするとかを行なうことになります。

 

成果給はあまり月例給に向かない仕組みではある

 上記のように、納得感が高い割にはデメリットが大きいため、月例給には向かない仕組みです。成果給を導入するなら賞与などでされることをお勧めします。
 ただ、それでも、不動産などの営業や人材紹介、水商売、コンサルタント(実は私も)など成果が見えやすい仕事には向いている仕組みではあります。
また、「設計次第では赤字になりにくい」「独立心が強い人に向く」という特性を捉えれば、スタートアップ(起業仕立て)の企業で採用しておくと会社の成長にも繋がりやすいと思います。人材育成の余裕がなくても、「それでもいい」と思う人たちが来ることになりますし。

 

今日のまとめ

成果給は
・成果配分というイメージが強くなるため、独立心が強い人たちに向き、
・企業が赤字にならないように設計できるので個人業績が強く出る職種に向いている一方
・短期的・独善的な行動を生みやすいため、安定組織には向きにくい。