くちばしコンサルティング

経営戦略を実現する、運用しやすい人事制度構築が得意です。

「5段階評価ならみんな3」を防ぐ、簡単な方法と本格的な方法

山本遼
人事制度について相談を受けていると、必ずと言って良いほど出てくる相談があります。それは「うちの会社は評価が中心に偏ってしまうんです」というものです。これは、人事考課をするときに陥りやすいミスの一つで、「中心化傾向」というものです。具体的には、従業員の年次評価をABCDEの5段階で評価している会社で、C評価の人が圧倒的に多くなってしまうような現象のことです。
(ちなみに、中心化傾向と似たような概念に寛大化・厳格化というものがあります。全体的に評価を甘くする場合寛大化といい、逆に厳しくする場合を厳格化傾向 と言います。)
 

 

一般的な中心化傾向の解決法

まず、一般的に言われている「中心化傾向」の解決方法を考えてみましょう。
 

1:考課者教育をする。

「きちんと差をつけましょう!」と、考課者に教育をする。よく見られる光景です。しかし、結局これをしてもあまり改善はされません。理由は3つあります。
 まず、評価者自身が、自分のつけた評価が中心化していると言うことに気付いていません。なぜなら、自分が中心化しているかどうかは他の人の評価分布を見ないと判らないからです。部下三人全員に対してC評価ならまだしも、微妙に分布している状態、例えば、B-C-Cとつけている場合、「私はBもつけている」と思うでしょう。 周りの評価分布がA-C-Eであるとか、B-C-Dであるとかを知らないと気づけないからです。
 
 2つめは、「中心化を止めよう」と言われたって、誰かがやってくれると思うのは人間の常だからです。電車に乗って「ご乗車された後は入り口付近に固まらず中にお詰めください」と言われているのにだいたいの人は詰めてくれませんし、エスカレーターでも「エスカレーターでは歩かず立ち止まってご利用ください」と言われているのにみんな右側に並んで立ちます。人間は「俺がやらなきゃ誰かがやる」と思う生き物です。今回は、全員に「中心化を止めよう」とアナウンスされているため、「まあ私一人が中心化していたって、他の人がAやEをつければ良いのさ」と思うからです。
 
 3つめが、考課者は自分の価値観に従っているからです。「差をつけろと言われたって、全員Bだと思うんだからしかたないじゃん」と思っているんですね。
 

2:制度で評価分布割合を決めてしまう

 次は、人事制度で「A5% B20% C50% D20% E5%」とルールを決めてしまうようなやり方が考えられます。しかし、これをすると、20人居たら絶対1人E評価が出来ることになります。本当にEが妥当ならまだしも、そこまで悪くなかったとしたら?(全員が業績達成して、会社としても万々歳の時に、それでもE評価をつけますか? あるいは全員失敗して大赤字なのにそれでもAをつけますか?
 
 実態にそぐわない、数字合わせだけの評価は本人の自尊心ややる気を大きく削いでしまうことになります。上司からのフィードバックで、「人事に無理矢理評価を変えろって言われたんだから我慢してくれよ」というような発言が見られたりして、本人の行動改善に繋がらないなんてこともあります。
 
じゃあどうすれば良いか。
 
 

簡単な解決方法「考課段階を偶数にする」「考課段階を少なくする」

中心化を防ぐ簡単な方法は、「考課段階を偶数で設計してしまう」です。ABCDの4段階評価にしてしまえば良いわけです。真ん中がないので中心化しようがありません。
しかし、今度は評価の寛大化が起きることになります。たとえば、ABCDの4段階としているときに、上司がBとCの間で悩むと、ほぼ間違いなくBでつけてくるという問題が発生します。
 
また、考課段階を減らすというのも手です。賞与評価でよく見られるケースですが、SS/S/A/B/C/D/E/F/FFの9段階にしているとかいうケースは多くあります(もっと多い会社も見ました)が、結局SSやFF等はおろかSやFすらこの5年間候補者すら居なかった・・・なんてことはザラにあります。評価の段階数は、多くても6ぐらいが妥当です。6以上なら多すぎて結局使いません。
 
 

本格的な解決方法「期初に評価基準を決めておく」

上記のように、簡単な解決法を取ると、多少中心化は避けることが出来ます。しかし、本質的な解決方法になるかというと怪しいところです。そこで、今回お勧めしたいのは「各評価の基準を、事前に明確に設定しておく」ということです。期初の段階で目標を客観的に評価出来るような表現で決定してしまっておくわけです。
例えば以下のような例です。
 
目標対比:(例えば売上や営業利益など)
A:120%以上達成
B:110%以上達成
C:100%以上達成
D:90%以上達成
E:80%以下

 

こうしておけば、期初に上司と部下とで合意した値に対して評価することが出来るので、考課に対する納得感を高めることが出来ます。しかし、このように数字で厳密に管理している場合に目標を部下に設定させると確実に低い値を設定します。そのため、上司からのコントロールが重要になります。(目標を高くし過ぎると不満を持つことになります)
 
 

定性的な目標の場合はどうしたら良い?

制度変更とか、マニュアル作成とかは、数値化するのが中々そぐわないケースが多いです。そういった場合は、「状態条件+日時」で目標を設定しておき、それに対して評価をすると良いです。
「(人事制度変更の場合)3月末までに従業員の9割以上に新人事制度の説明会を実施している」 のような形です。
それに対して、
A:目標通り進捗・予算も計画以下に抑えた
B:目標通り進捗
C:計画の遅れや、マンパワーの追加はあったが最終的には期限内に進捗
D:計画の遅れや、マンパワーの追加があり、期限からやや遅れた
E:完遂出来ず

 評価基準を決めてしまっておく、ということですね。

 
ただし、このルールの一番のネックは「考課者の負担が結構大きい」ということです。まあ、頭の中になんとなくの基準とかがあって仕事を割り振っているんでしょうが、やっぱり明記しておくのは疲れることです。
 
しかし、そもそもこうやって基準を明確にしておくことで、部下の行動が良くなって業績に繋がるのであればやらない手はありません。
 
よく、「目標は数値化しましょう!」とだけ言う人も居ますが、無理矢理数値化すると目標の為の目標が起きます。 例えば「1万字以上のマニュアルを書く」とか「マニュアルを30頁以上書く」とか。そんなに長いマニュアル読んでられんよ、ということで書く人も書かれる人も不幸にしかならないアレです。確かに、数値化することのメリットは計り知れないものがありますが、やっぱりどうしても無理なものはあるので、定性目標の場合は定性目標なりの評価基準を作ってあげることが良いです。
 

そもそも論「中心化傾向って悪いこと?」

「事前にルールを決めておけば評価しやすくなると言うことは判った。それでも真ん中に集まらないか?」と心配される方も多いだろうと思います。しかし、そもそも中心化しているという現象は悪いことと言い切れるでしょうか?
確かに、なんとなく評価して、いい人も悪い人も5段階中3、とかやられるとやる気に繋がらなくなります。 
 しかし、事前に評価基準を明確にして、それに従って考課した結果3が集まるのなら、それはそういうタイミングだったということに過ぎないです。
きちんと評価した結果の中心化現象と、判断の根拠がないから適当に中心化させたこととは切り離して考えるべき、ということです。
 

今日のまとめ

・中心化傾向が嫌なら偶数にする
・ただし偶数にすると考課の寛大化が起きる
・評価基準を決定しておくと、根本的な解決に繋がる(ただしタイヘン)