くちばしコンサルティング

経営戦略を実現する、運用しやすい人事制度構築が得意です。

「部下が目標達成が難しくなってから泣きついてくるんだよ」という管理職の悩みに対してどう答えるか

山本遼

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「君たちはどう評価するか~悩みボヤく管理職に逆質問で気づきを促す、評価制度の運用想定問答集~」(2018.06~2018.11号連載)

 

月刊人事マネジメント 2018.08月号

 

 

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 私が社会人1年目の3月上旬の話です。当時勤めていた会社では、他の多くの会社と同じく目標の期間を4月から翌年3月までの1年間と設定していました。私が自席で仕事をしていると、おずおずと同僚が上司の席に向かいます。同僚が何を報告したかは聞き取れませんでしたが、上司が呆れて出した大声で何が報告されたか察することが出来ました。「今言うなよ!申し込みしてないのにあと1ヶ月でどうやって簿記二級取るんだよ!そもそも次の試験6月じゃん!」彼は期初に設定した目標が達成できない見込みであることを報告しに行ったのです。
 その後も人事職として、数多くの考課者から「最近の若手は報連相が出来ない」「部下が期限ギリギリになってから報告をしてくる」「しっかり採用と研修をして欲しい」等のご相談を頂くようになりました。(本連載では、考課者のボヤきを建設的に考えるため"相談”と言い換えています)

 

「部下が目標達成が難しくなってから泣きついてくるんだよ」

 このような考課者の相談に対し「早め早めに報告させるように口を酸っぱくして言っていくしかないですね」と言ったアドバイスをしたとします。考課者は部下に対して高頻度での報告を求めるようになるでしょう。しかし、仕事の進め方やマイルストーンを明確に出来ていない部下にとっては、何をいつ報告すれば良いか判らず、怒られる回数だけが増えると感じてしまう恐れがあります。では、こうした相談にはどのように回答すべきでしょうか。

 

相談者の今の状態は?

 相談を受けたときにまずすべきは、相手の現状把握です。考課者の口ぶりからして、期中の目標達成が可能な段階で軌道修正をしていなかったことが推測できます。部下の目標を他人事として考えているのか、進捗管理の必要は無いと考えているのかも知れません。また、報告は部下から自主的にするものだと考えているとも推測されます。

 

管理職が目指すべき状態とは?

 従業員一人一人が自主的に無理の無いスケジュールを設定し、着実に実行していくことが出来ればそれに越したことはありません。しかし、出来る人は限られています。ならば、考課者には部下の目標達成に向けて伴走するなど、支援をすることが求められます。

 

問題解決の為の方向性

 まずは、目標管理や日常業務などの達成に欠かせない「やる気」についての、脳科学の研究を3点ご紹介します。


①行動しないとやる気が出ない

 則座核という脳の部位が活動すると、やる気が出ると言われています。しかし、この即座核は行動をし始めることで活動すると言われています。つまり、やる気が出るのをただ待っているだけではやる気は出ません。

②何をすれば良いかが明確になれば行動に繋がる

 ハーバード大学のフライヤー教授による「学習意欲とインセンティブの関連」の調査によると、成果を出すために必要な行動を部下が把握出来ていない場合、インセンティブを提示されても行動に繋がらないことが判っています。そのため、行動のためにはすべきことを明確にすることが重要となります。

③期初と期末にやる気が高まる

 初頭努力・終末努力という言葉があります。期間の最初と最後にやる気が高まるという現象のことです。皆さん夏休みの宿題をイメージするとわかりやすいかも知れません。休みの最初は思い切って取り組むものの、お盆頃には中だるみしてしまい、8月下旬に慌てて取り組むという経験は誰しもあるかと思われます。(締切ギリギリになってしぶしぶ行動することを、やる気と呼ぶべきかはさておき)つまり、1年間の大きな計画では無く、細かく期間と到達地点を設定することで、期初と期末の回数を増やし、行動に繋がりやすくなるということが言えます。

 

 これらから、部下が目標管理を完遂するために考課者がするべきことは、以下の2点であると言えます。

・できるだけ細かいアクションプラン(いつまでになにをするか)を作り、部下と共有する。

・部下の行動が止まっているようなら一歩踏み出す後押しをする。そのために、積極的に進捗を把握する。または部下が報告すべき基準を事前に明確にしておく。

  「困ったことがあればいつでも相談しに来い」とだけ言って後はほったらかしにしておくのは、親戚のおじさんならまだしも、考課者には許されないということを理解して貰う必要があります。

 

考課者への具体的な質問例

 では、どういった問い掛けをすれば考課者をあるべき姿に導くことが出来るのでしょうか。ここからは、人事担当者から相談者に対する問い掛けの例をご紹介します。

 

目標を行動・スケジュールに落とし込むことを促す質問例

①部下は事前に何を・どの順番で:いつまでにやれば良いか、把握出来ていましたか?
②目標達成のためには、どんな業務フローで、何ヶ月程度掛かるとイメージされていましたか?
③今おっしゃったスケジュールややり方を、部下に事前に示したり、一緒に考えてみたりするのはどうでしょうか? 

 まずは、①そもそも部下のレベルを把握していたか、ということを問い掛けます。ここで、把握出来ていなかったようであれば、②③とつづけ、部下が自身でスケジュールを立案できない間は、計画の立て方から指導する必要があることを伝えます。

 

考課者から報告を求めに行く・報告の時期や基準を明確にさせることを促す質問例

・「目標を達成するためには、遅くともいつごろには報告があればよかったですか?」
・「どれぐらいの頻度で報告があればよいと思いますか?」
・「事前に報告を受ける日程が決めておけば、進捗管理も楽になりそうですね」

 考課者がどのような頻度やタイミングで業務報告を求めているのかを問うことで、考課者自身がぼんやりと考えている「あるべき報告の頻度」を具体化させます。それによって、報告させすぎ・放置しすぎを避けることに繋がります。また、事前に具体的に進捗を報告する日程を決めておけばルール化できるので、基準を明確に出来ます。

 

おわりに

 目標管理をはじめとした人事制度は、上手く使えば考課者のマネジメント能力を引き上げることが出来ます。そして、考課者からの相談は、現場の現状を把握する良い機会になります。

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PDFは以下よりご覧ください。

https://drive.google.com/open?id=1elBkdG8cmLzG6OXx6Gdz5FnDoEhxW6is

 

本記事は月刊人事マネジメント様との契約に従い、発刊後1ヶ月経過したため公開しているものです。