くちばしコンサルティング

経営戦略を実現する、運用しやすい人事制度構築が得意です。

上司一人あたりの部下は何人ぐらいが妥当?

山本遼

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人事制度運用のご相談を受けていて、多い質問が「上司一人あたりの部下の数は何人ぐらいが妥当ですか?」と聞かれることがあります。

上司一人で見ている部下の数が多すぎて、目標設定や人事考課のフィードバック面談の手が回らない・人事考課の時に部下の業務をあまり把握していないため、評価の根拠が少ないので評価が中心に寄ってしまう(ABCDEの5段階評価ならほぼ全員B)といった問題が生じているようです。

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こういった問題に対してどのように対処すればよいのか、というお話です。


管理者の原則

多くの会社では、だいたい課長と呼ばれるぐらいから人事考課をすることになります。そのため、課長が課員全員の評価をすることになるわけです。これは、組織の人事管理の原則から考えても自然なことです。

人事管理の原則というのは、経営組織における人間行動を階層的に分解したモデルのことです

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ここにおけるミドルマネジメントは、トップマネジメントの決定した目的や戦略を受けて、組織を編成し、計画を策定・仕事を配分して指導する役割を担っています。 そのため、この階層に人事考課権限がないと、なかなか上手く仕事が回せないわけです。

 

しかし、最近はミドルマネジメント層になってもプレイングマネージャーと呼ばれるように、直接的に業務をやっている人も多いですし、管理職の数を絞り込むケースも多いため、部下の数が多くなってしまっているというわけです。そこで参考になるのが、「統制範囲の原則(Span of Control:スパンオブコントロール)」と言われる考え方です。これは、一人の管理者が直接的に管理出来る部下の数には一定の限界があり、これを超えて管理しようとすると管理効率が下がってしまう、というものです。

 

目安は5~7人ぐらい

管理職が一人で管理できる部下の数は、だいたい5~7人程度を目安だと言われています。このぐらいの人数なら、目も届きやすいし、一人一時間面談をやっても一日で終わるため、目標設定やフィードバック、1on1などの面談を月1回を行なっても負荷が高まりすぎないためです。

また、これ以上少ない2-3人などだと、今度は手厚くなりすぎ、企業にとって直接利益に繋がらない管理費の負担が上がってしまうことにも繋がりかねません。

 

職務によってはもう少し多くても大丈夫なケースもある

5-7人というのは、あくまでも営業や人事、技術などの場合。 工場のライン工やコールセンターなどの場合はもう少し多くても良いでしょう。10人以上でも業務の進捗を把握することが出来るからです。また、面談のための時間も毎月1時間ではなく、30分程度でも十分なケースが出てくるからです。

 

上司一人あたりの部下の数の基準、何を軸にすれば良いか

上記の例では、営業・人事・ライン工・コールセンターなどを例に取りましたが、全ての職種の一覧を作ることは不可能です。 そんなときに参考になるのがスパンオブコントロールを広げるために必要となる条件として提示されている以下の工夫です。

1.管理者の例外処理能力を高める
2.下位メンバーのスキルを高め、例外事項への判断力を持たせる
3.作業の標準化を進める

上記の3つを進めることが出来れば、上司が管理出来る部下の数を増やしてもOK、というものですが、これらを言い換えると、「事業環境や職務の複雑さを低くすると統制範囲は広くなる」とも言えます。

つまり、上司一人でみれる部下の数は、事業環境や職務の複雑さに影響を受けると言うことです。

複雑さと部下の数をグラフにすると以下の通り

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そのため、部下の数を検討するときは以下の取組みを行なえば良いわけです。

1.自社の事業環境の複雑さはどのようなものかを判断して基本ルールを設定する。
2.業務を平準化し、なるべく職務の複雑さを低くする。それに成功すれば、ルールを見直す。 

 こうやって考えると、同じ人事メンバーの中でも、採用チームや人事制度の運用チームは比較的外部環境に晒されることが多い一方、社会保険や給与計算といった比較的年次でスケジュールを立てやすい業務をしている人たちとでは、上司が見るべき数には差を設けることが妥当であるとも考えられます。(業務の上下を言っているわけではないですよ!!)

 

 

Span of Controlの拡大方法

 「業務の難易度に応じて上司一人あたりに見られる部下の数が異なるのであれば、管理職の必要数が決まるのではないか、そんな人件費予算は無いよ/うちには管理職に適した人材は居ないよ」という声も聞かれそうです。

 原則があるなら例外もあるように、以下の場合ならば部下の数がもう少し増えても管理が可能とされています。

・マネジャーとメンバーのレベルが高い
・部門内の仕事が多様でない
・各部下の業務が独立している
・業務のタスク測定が容易

 先ほど紹介した、スパンオブコントロールの原則を広げるのと同様です。「誰に何を任せるのか・どうやって進めて、どうやって管理するのか」を明確にしておくということに他なりません。

 また、これが出来るようになると、マイノリティ(外国人・女性・障碍者の方)とされてきた方々への活躍の場の提供が可能となります。共通認識が無いこと(この業務は普通ここまでやるだろう!という管理職と、それは知りませんでしたという従業員のすれ違い)家庭や本人事情(業務を中断せざるを得ない場合のケア)などに対しても、業務指示を明確にしておくことで認識合わせが可能になるといった効果が期待できるからです。

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しかし、上記のようなことはすぐ出来るわけではなさそうです。そんなときにせめて人事考課だけでも上手く回したいという企業には、以下の考え方が合います。

 

組織の人数が多すぎる場合はクロスレビューで対応すれば良い

今、20人とかの部下を見ている管理職が、5-7人しか考課しないというルールにしてしまうと、「じゃあのこり15人はどうしたらよいのか」という話になります。その場合は、下にピラミッドを追加してしまえば良いわけです。

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管理職の下の主任に、ある程度の大きさのグループの考課をさせ、主任を集めて課長が全体の考課を確認して行けば良いわけです。 

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こうすれば、20人を5人の班4つに分け、主任が人事考課を行なう。主任4人を集めて課長が人事考課の妥当性を確認し纏める。 このルールをクロスレビューと言ったりします。


それでも管理職が考課しなければならないときは。

上記のような取り扱いがどうしても出来ない会社というのもあります。例えば、あなたがライン管理職で人事部からの協力が得られないとき。現在入れている人事評価システムの権限が管理職以外に付与できないと言われたときなど。

そういう場合は、疑似クロスレビューのようなことをすれば良いわけです。要は、やっぱり主任に事前に考課させ、それを参考に考課を行なってしまうと言うことです。所謂名義貸しのようなイメージです。

こうしてやれば、考課人数を擬似的に減らすことが出来ますし、主任に人事考課を経験させることで、考課者として抜擢するときのレベルアップが期待できます。

ただ、もし人事考課に妥当性がなかったときに怒られる責任はあなたが負い続けることは残りますのであしからず。

 

 

今日のまとめ

・一般的には上司一人につき部下5-7名ぐらいが妥当
・ただし、割と定型的な業務であればもう少し多くてもOK。
・多い場合は上司の業務のマネジメントの割合を高める。
・必要に応じて代理の仕組みを作っても良い。