くちばしコンサルティング

経営戦略を実現する、運用しやすい人事制度構築が得意です。

事業環境が変わったので求める人物像を大きく見直した事例

ここまで、結構抽象的な話が続いたので、求める人物像を大きく見直した事例を紹介しておこうと思います。

 

 IT業の中にはSES(Software Engineering Service)という事業をしている企業があります。これは、すごくざっくり言うとプログラマとかSEとかを自社でまず雇用し、他社でIT技術者を必要としている企業に派遣するという業態です。

 従業員には40万円払って、自社はクライアントから80万円受け取る。その差額が自社の利益になるわけです。この業態は、100%稼働させておけば確実に儲かる事業だったりします。

 しかし、この事業にも穴があって、ライバル企業のB社が「ウチは50万円で雇用する!」と言ってしまうと、従業員は離職しやすかったりします。従業員からすればどうせ他社で働く訳なので、給与の高い方に行くのは自然です。また、顧客に従業員を引き抜かれたり、従業員が独立してしまったりということもあります。

 そして、企業の側も金額以外では差別化し辛かったりします。しかし、派遣する従業員が確保しづらいからと言って給与を上げると利益率が下がります。

 そんなため、30歳前後とかで離職するケースが多く、伸び悩んでいました。そこで、「ウチはもっと高付加価値化の業務にシフトする!自社でシステム開発や、ITコンサルをするんや!」と一念発起された訳です。

 

 

SES/技術者派遣をする企業にとっての求める人物像

技術者派遣をする場合、以下のような人が居れば良いです。

営業は、「どれぐらいのレベルの人を・何人・いつから」を顧客から聞いてくる。

技術者は、技術力以外には対外交渉やクレーム対応、関係維持が出来る。 


そのため、評価基準では技術力・折衝力・調整力・顧客との関係維持を挙げる企業が多いです。

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自社でシステム開発をしたりITコンサルをする企業なら

しかし、自社でシステム開発をするとなると話は変わってきます。
必要になる人のイメージはこんな感じです。

自社でどんなシステムが作れるのかを把握し、お客さんの要件を把握して製品を形作っていく。また、ITコンサルをするため、顧客の経営ニーズや事業ニーズをヒアリングした上で提案出来る。

 
そのため、企画力・技術力・経営視点の理解・提案力などが出来る人が理想です。

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低次業務の延長線上に高次の業務があるとは限らない

ここで考えていただきたいのが

技術者派遣時代に求められる能力である「対外交渉やクレーム対応、関係維持」がものすごく高いレベルで出来る人が居たとしても、

自社開発・ITコンサルに求められる「企画力・経営視点の理解・提案力」が全く無いなら、ITコンサル分野に進出することは出来ないだろうと言うことです。

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同じIT業界なのに、変更前の延長線上に、未来のありたい姿があるとは限らないということがお分かりいただけたかと思います。

 よく、古い管理職が若手に「企画業務をしたいなら定型業務を頑張るんだ」とか指導していたりしますが、どうやら見当違いっぽいということはお分かりいただけるでしょう。(まぁ、実務の流れを知っているからこそ出来る企画とかもありますが、それでも何年もやらなきゃ理解出来ない訳でも無いでしょう)

 

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戦略が変われば必要になる人物像も変わるのです。

 

「事業目標」と「人の質」をどう連動させるか

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本記事は上記連載の第6回です。

 

今回の人事制度設計は、事業目標達成の為の人事制度設計です。そのため、事業に関する視点と人事に関する視点から逆算していくと整理しやすくなります。以下の箱を埋めていくイメージです。

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左側が事業に関する視点、右側が人事に関する視点です。
そして、上が将来、下が現在や過去です。

 

左下には現在の業績が来ます。売上高○億円とか利益が×円とか、どんな製品やサービスを提供できているか、という言葉が入ります。

右下には現在の人員に関する情報を記載します。従業員は△人で、スキルレベルはどれぐらいか、どんな考え方をしている人が多いか などを記載するわけです。

左上には将来の事業目標を記載します。たとえば5年後に売上を倍にしたいとか、新製品を作りたいとか。業績目標や経営戦略を記載していきます。

右上には、左上を実現するために必要となる人の質や量を記載します。左上を達成するためにはどんな人が必要になるか?何人必要になるだろうか、ということを書いていきます。

 

そして、人事の施策として右下から右上に移るためにどんなことが必要になるだろうかと言うことを考えていくわけです。

 

今から人事制度を作ろうとしている人は、試しにこの箱を全て埋めてみることをお勧めします。セミナーなどでワークをやっても、人事の人は左側の戦略の部分をあまり把握していないケースが多いですし、経営側の人は右側があまり意識できていないことがあったりします。
また、人事も経営も、右上を書くときに筆が止まるケースが多いです。

しかし、右上のゴールを把握することなくして、人事の施策を作ることは出来ません。

ギャップを把握せずに施策に走るとどうなるか

 企業の方から「リーダーシップやロジカルシンキングの研修をした方が良いか?」と聞かれることがあります。確かにリーダーシップやロジカルシンキングなどは多くの企業で必要になるスキルです。しかし、そういった能力が必要とされていない企業なのであれば研修をやる意味はありません。また、既に従業員全員がリーダーシップやロジカルシンキングの能力を持っていたとしたらギャップが存在しないのでやる必要は無いわけです。

 こういった悲劇は、教育部門の人が「何か新しい研修を企画しなければ」ということで考えてしまっている時に起きやすいです。

 研修をやるのはお金の掛かることです。どうせ高いお金を払うなら自社の従業員にとって足りないところをケアするほうにお金を使うべきです。必要なものなら100万円でも使うべきですが、不要なものなら100円だって惜しむべきです。

 

人材要件の「質」を明らかにするには? ~求める人物像の設計の仕方~

自社にとって必要となる人物像を設計する方法は、大きく分けて2種類あります。演繹法(えんえきほう)と帰納法(きのうほう)といいます。

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*これは僕が勝手に呼んでいるだけですので、他社の人とかに突然話すと伝わらないです。

 

帰納法的な設計の仕方

帰納法というのは、複数の事象から共通するルールや一般論を抽出する方法です。
自社の中でエース・ハイパフォーマーと言われるような人たちに対してインタビューや業務の同行などを行なって、「何が成功要因になっているのか」を明らかにし、それを全社員に展開していくような考え方です。

 例えば、この例だとエースのABCさんにインタビューを行なった結果、成功している人たちはどうやらヒアリングと専門知識を重要にしているっぽいと言うことがわかりました。
そこから、これを他の従業員にも展開していこうと考えていくわけです。

 さらに、あまり成果を出せていない人たちにインタビューをかけることで、どうすれば失敗するのかということも明らかに出来ます。

 この考え方が向くのは人に依って出来・不出来が大きく異なる場合など、自社の中に勝ちパターンを把握出来ている人が居るような場合になります。

 

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演繹法的な設計の仕方

 演繹法というのは、一般論から事象を推測するというやり方です。バリューチェーンや業務フローをまず整理して、それぞれを成功させるためにはどんな能力やどんな行動が必要なのかなーということを考えていくようなイメージになります。

 例えば、「普通に流通している物をお客さんに売る」という営業スタイルをやっていた企業があったとしましょう。

 しかし、伸び悩みを感じたので、お客さんの悩みを解決出来るよう製品を(組み合わせたり開発したりして)提案し販売するというコンサルティング営業 というスタイルに移りたいなーと考えています。

 ただ、自社はコンサルティング営業をやったことがないので、自社の中でエースと言われる人たちはいません。

 勝ちパターンがわからないなら、コンサルティング営業の流れを整理するわけです。
すると、例えば以下のようになります。

1.お客さんの欲しいものや悩み、予算をヒアリングする
2.ヒアリングを踏まえて提案を作る
3.プレゼンする
4.受注する 

 そして、「ヒアリングにはどんな能力が必要かな?」「提案作成にはどんな能力が必要かな?」と考えていくわけです。

 すると、「自社の良い物を押しつけるのではなく、傾聴のスキルが必要そうだ」とか、「出来るか出来ないかを判断できる製品知識が必要だ」とかが判るわけです。
 同じように提案作成やプレゼンなどに必要になるスキルや行動を考えます。

 このように、演繹法で考える方法では、今までに無い事業を始める企業に向きます。また、自社の中にエースと呼ばれるような人が居ない場合では演繹法でしか考えようが無かったりします。

 あるべき業務の状態から逆算して考えていくと考えれば判りやすいかも知れません。

 

 しかし、留意しておかなければならないのは、あくまでも仮説にしか過ぎないということになります。「たぶんこれが必要なポイントだろうな」ということしか判らないわけです。
そのため、こまめに見直しをしていく必要が出てきます。

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「帰納法と演繹法、どっちをやればいいのか問題」の結論

 演繹法と帰納法どっちがいいのか問題は気になるところだと思いますが、結論としては「どっちもやってください」というところになります。
 求める人物像については企業が進んでいくべき指針となるので、ここで間違えるとどれだけ精緻に人事制度を作り込んだとしても意味の無い制度になるからです。

 ややキツい表現になりますが、進むべき方向を誤っているのであればどんな施策もキラキラ輝くゴミにすぎません。

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企業では人の質の観点が機能不全を起こしがち

 これだけ大事な人の質という観点ですが、多くの企業ではこれが機能不全になっているケースが多いです。具体的には以下のようなイメージです。

・経営環境が変わっているのに、人の質の見直しがされていない
・抽象的で曖昧
・存在しない・浸透していない 

 進むべき人の質の観点が無い、つまり「どんな人が居たらいいかわかっていない」のに、「良い人が採用出来ない」とか、「ウチの従業員は駄目な奴ばかり・・・」とぼやいているケースが多いわけです。

 そもそも「良い人ってどんな人」ということを定義することなしに人事戦略など採りようがないわけです。

 「善とは何か」を定義せずに人のことを偽善者呼ばわりするような理不尽を起こしてしまっているわけですね。

人事制度設計の時に考慮しておくべき3つの要素

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本記事は上記連載の第5回です。

 

人事制度を作っていくときに、考慮するべき要素は様々あります。具体的にはどのようなフレームワークで考えていくか、ということになります。

 人事におけるフレームワークというのは少し難しいですが、ラルフクリステンセンは「戦略人事マネジャー」という本において、戦略的人材マネジメントのフレームワークとして以下の5つを挙げています。

・学習と人材開発
・従業員との関係
・業績マネジメント
・組織開発
・要員プランと採用・配置

フレームワークなので、「上記の全てを押さえられていれば、概ね人材マネジメントをしていく上で考えこぼしは無いだろう」という指針になります。

 

 本ブログも基本的にこの考え方に沿っていますが、いきなり上記全てを満たす制度を作ろうと意気込んでしまうと途中で挫折してしまいかねません。そのため、人事制度を作るときの要素、つまり人事制度を改定することで実現したいゴールとして以下の3つを提唱します。

人事制度を考えるときにまず把握するのは

人の質 と 人の量 と 制約条件です。

 

質の観点

質とは、例えば「どれぐらいの成果を挙げられる人が欲しいのか」「どんな能力がある人が良いのか」「どんな行動を取れる人が良いのか」

 もっと具体的に言ってしまうと「いくら売れる人が良いのか」とか「ミスがどれぐらい以下で、スピードはどれぐらいなのか」などの能力レベルのことを指します。

 

量の観点

量とは、何人欲しいのか ということになります。 事業や機能ごとに分けて考えても構いません。

まとめると、どんな人が何人欲しいの?ということを制度のゴールとして設定しておいてあげるわけです。

 

追加で制約条件も考慮しておく

また、制約条件も判っているならリストアップしておくとよいでしょう。
制約条件になってくるのは、

・短期的な事業ニーズや人件費の制約
・法律上の制約
・組織風土による制約
・期間
など。


 どれだけクリエイティブ業務にシフトしたいと言っていても、直近で利益を上げることが出来ない企業では「まずは本業で利益を出せるように改革すること」の方が優先されます。
 従業員を管理職にしたくない・裁量も与えたくない だけど無限に働かせたいと言っても法律がそれを許しません。
 また、組織風土的に「ミスを許さない」組織ならきっとチャレンジをしようという制度を作っても上手く行かないでしょう。「年功序列でなければならない」ということを人事以外の従業員全員が思っている組織で、成果給を入れようもんなら大反対が起こること必至です。

 どうやってどんなゴールにたどり着けば良いか、ということを明らかにしていってあげることが必要になるわけですね。

 

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人事制度設計のフロー

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本記事は上記連載の第4回です。

 

前回は、完璧な人事制度などない。従業員全員が満足する人事制度などないのだから、自社の経営目標達成に適した人事制度を選びましょうというお話をしました。

今日は具体的に人事制度を作っていくというフェーズになります。

人事制度作成に当たっては、大きく3つのステップに分かれます。

1.方針設計
2.人事制度設計
3.制度浸透、行動変革 

 です。

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この中で一番大切なのは方針設計です。
 制度を作るぞとなって、まず等級はどうする?とか報酬をどうしよう?とか考えると何をどうやって作ればいいのか判らなくなってしまって立ち尽くしてしまうことになりかねません。そのため、まずはゴールを設定することが必要なわけです。

 大阪に住んでいる人が東京に旅行に行くぞ、ということを決めてはじめて、「新幹線に乗るか」「バスを使うか」「飛行機を使うか」と言うことを決められるわけです。

 しかし、「新幹線は省エネで安いし時間に正確だ。一方バスは最近事故が多くて危ない気がするし、飛行機はなんか怖い。だからまず新幹線に乗ることを決める」としてしまうと、西行きの新幹線に乗って博多に着いてしまったり、新幹線に似ているからと言ってサンダーバードに乗って金沢に着くと言うことが起きるわけです。

 誰よりも早く確実に省エネで金沢に着いたところで、自分が行きたいところにつけなければ意味が無いわけです。

 それに、人事制度を作るのはやはり大きなプロジェクトになってきます。そのため、最初にゴールを決めておかないと、途中で「東に行けば良いんだからやっぱり名古屋で良くないか?」とか「いやいや、もっと東に行こう、東北を目指すべきだ」とかいう議論になりかねません。

 

だから、まずゴールである求める人物像の設計をしていきます。

 

 次にするべきは、現状の分析です。今はどんな制度で、どんなレベルの人が何人居て、どんな問題があるのか、などを分析するわけです。

 そして、現状と目標のギャップがどれぐらいあるのかということを明らかにしていきます。

 

次回は、人材要件の設計に入っていきます。

働き方改革関連法案に対応する人事制度の設計方法セミナー 東京・大阪・博多ツアーをしてきました。

www.sele-vari.co.jp

 

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弊社主催の働き方改革関連法案に対応する人事制度設計方法セミナーと称して、東京・大阪・福岡の3都市でセミナーを実施しました。

弊社代表の平康が戦略編を、私が人事制度の設計編を担当しました。

 

働き方改革というと、「人事制度とは関係ないのでは?」と思われるでしょうが、生産性向上や高付加価値業務へのシフトということを考えるならば、社長や管理職が訴え続けるだけでなく、制度で後押しをすることが欠かせません。働き方改革を実現すれば、従業員にとってもメリットがある・・・ということを制度で表現することで、企業の本気度を示すわけです。

 

結果は90%以上の方にご満足をいただけました。 何よりです。

 

私自身も、1回目より2回目、2回目より3回目と徐々に内容や伝え方が洗練できたのでやっていて楽しかったですしね。

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心残りは、せっかく博多に出張できたのに大好物の“サバ明太寿司”の駅弁が売り切れてしまっていたことでしょうか・・・!!!駅弁屋さんを5件もはしごしたのに!

 

良い人事制度と悪い人事制度

本記事は以下連載記事の3回目になります。

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 人事制度を作ったり、改定したりするときのきっかけに、「従業員の不満を解消したいから」というものがあります。確かに、企業としては「従業員にモチベーション高く働いて貰いたい!」「モチベーションの阻害要因となっているのは何だろう?」「人事制度の○○の部分が問題なんじゃないか?」と考えるのは凄く自然な流れですし、もっともらしいように感じられます。

 従業員の不満を解消するために人事制度を作り替えた場合に起きることをご紹介しましょう。

 

従業員の不満を解消するために人事制度を作り替えた事例

 

事例1「頑張る人に報いようとしたのに」

 職務を遂行する能力を評価することとしていた企業で、業績の高い人の評価が低くなり不満が発生しました。そこで、業績のみで評価をするようにしたら、従業員が短期志向になり、逆に業績が悪化した。

 

事例2「制度の穴は全て防ぐのだ」

 完璧な制度を作って欲しい、と言われたため、様々なサブルールや例外ルールを設定した。結果的に、複雑な人事制度の運用に過大な負荷が掛かるようになったうえ、従業員から「よくわからない」と不満が発生した。

 

事例3「他社もやってるからウチもやる」

 一般社員から、「他社では360度評価を導入しているようだ。当社も導入して欲しい」と言われたので導入。しかし、上司が部下の機嫌取りを行なうようになってしまい、業績は向上せず、管理職昇進を嫌がる者が続出した。

“良い人事制度”を考えるための軸をどう設定するか

 このように、従業員からの不満として表出したものをそのまま対応しようとすると、別なところで問題が出てくることがあります。
 それは、人の感じ方はそれぞれだし、各人の活躍しているレベルなどによって感じ方が違うから、と言うことが原因にあります。全ての人を満足させるような方法は色んな人が考えていますが、まだ見つかっていません。

 そうなると、従業員満足を軸とした価値判断そのものを疑う必要があるのかもな、と思います。全員からの満足は得られない上、それをゴールに設定するといつまで経ってもゴールに到着することがありません。

 では、どう考えるべきかというと会社設立の最初の目的、業績向上につながるかどうかという軸で考えていくことが必要になります。

良い人事制度とは、「事業目標達成に向いている制度」だと考えるといいいでしょう。

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“悪い人事制度”とは?

 制度における良さを定義したので、次は悪い人事制度とは何かということを考えます。
 悪い人事制度は、当初目的に到達しない人事制度であると言えます。つまり業績に繋がらない人事制度ということになります。
 制度はあるけど、従業員の行動に繋がらない、とか、業績目標と連動していないものです。

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従業員行動に繋がらない人事制度

従業員行動に繋がらない人事制度というのは、例えば
「評価基準が曖昧で、何をすれば評価されるのかわからない」というものがあります。
「一人前の社会人になればA評価」と書かれているけど、一人前の社会人って何だよというのは人に依って水準が違ってしまうわけです。このように、曖昧な制度だと制度の実効性が落ちるという観点で悪い制度だと言えます。

あるいは「頑張っても評価されないし、頑張らなくても昇給する。」というような仕組みがある場合ですね。しかし、頑張れと言われるという場合。頑張っても頑張らなくても別に良いなら基本的に頑張りません。

 

業績目標に繋がらない人事制度

業績目標に繋がらない、というのは東京から大阪に行こうとしているのに、東北新幹線に乗るような仕組みを作っているというような仕組みのことです。
行きたい目標を後押しするための施策になっていないわけです。

 専門性を向上させることが事業目標にとって重要なことだと結論づけられたのに、人事制度はローテーションが前提になっていたり、専門性を上げても昇給しない・管理職になると昇給するというような仕組みの場合は、事業目標に対して制度が後押し出来ている体制だとは言えません。

 

あとは、運用できない制度も良い制度だとは言いにくいでしょう。トヨタの人事制度を町工場に持ってきたとしても、専任の制度運用担当者が居ないときっと運用できず、瓦解してしまうことになるためです。

まとめ

 人事制度に限らず、何かを作ろうとなると「良い物を作りたい」と思うのは人の常ですし、真っ当な考え方ではあります。しかし、制度に関してはいつ・どんなときでも適用できるような、絶対的に良い制度というのはありません。
 そのため、自社にとって、どんな制度にするのが良いのだろうかという視点を持っておくことが制度構築の観点では重要だということです。

多くの企業にとって、人手不足は質の低下にも直結する理由

昨今、人手不足という言葉は非常に多くのところで聞かれています。

日本の企業では22歳で入社して再雇用などをへて65歳まで働くのが一般的ですが、この人口はこの30年間で900万人ほど減少しています。(正確には20歳~64歳人口。2020年の推計値6783万人と1990年の実測値7690万人の差。)

*出典は2010年までは総務省国勢調査
2015年以降は国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)」

 

また、今後20-64歳の層に入ってくるであろう19歳以下の層に至っては、1990年の3269万人から2020年には2015万人と、1200万人も減ることが見込まれています。

 

こんな状況では、企業でも人手不足が起きるわけですし、今後はそういった流れがさらに加速することになります。

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と、ここまでは誰しもが知っている話でしょうが、実はこれだけ減ると質の低下も起きてしまうわけです。

 

人手が減ると質が下がる

よく、2-6-2の法則とか2-8の法則とか言われたりします。これは、企業において

・出来る人が2割

・普通の人が6割

・出来ない人が2割

ぐらいだろうという経験則に基づいたものです。

この図は、普通の人たちを「ややよく出来る」「やや出来ない」に区分しています。

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そして、その年の若者を、

・テレビでもCMをやっていたり、みんなが行きたがるような超ブランド企業

・まあまあ名の知れた有名企業

・その他の一般的な企業

が取り合っています。

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超ブランド企業はよく出来る人だけを採用することが出来ます。

そして、有名企業はそのおこぼれとなったよく出来る人と、ややよく出来る人を採用し、

その他の企業はややよく出来る人・やや出来ない人・出来ない人 を採用することになります。

 

そして、ここから人が減っていくわけですが、人が減ると言っても、単純に「出来ない人から順に」減るわけではありません。全ての層からまんべんなく人が減っていくわけです。

 

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すると、採用の現場でどのような減少が起きるかというとこうなります。

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超ブランド企業にとっては、取れる人も数も特に問題になりません。今まで通りの人数と質が確保出来ます。

一方で、有名企業にはハイパフォーマーが落ちてくることがなくなります。そのため、まあまあよく出来る人たちを全力で確保しに行くことになります。数を合わせるためにやや出来ない人にまで手を回すかどうかは企業の判断次第です。

その他の企業にとっては悲惨です。いままで取れていたやや出来る人が居ないどころか、敬遠したいぐらい出来ない人を採用しても数を充足させることすら出来ないわけです。

 

まあ、これは結構簡略化している考え方なので、凄く良く出来る人たちが超ブランド企業を敬遠して一般企業に行く、なんてことも起きるわけですが大きなトレンドとしてはこのようなことが起きるわけです。

 

採用担当者に、「数が無理なら質だけでも確保せんかい」と言ったところで人手不足だと質も下がってしまうのはある程度やむを得ないんですね。

 

解決策はないのか?

「人が採れない・質も下がる、大手との差は開くばかりじゃ!!」と嘆いていても仕方ないわけです。優秀な人を確保するためにどうしたらよいか。大きく書くと以下のような感じの解決策が提案出来そうです。

解決策1.社内の「良い人」を逃がさないようにする

解決策2.社内の人を育成して「良い人」に変える

解決策3.「良い人」の定義を変える

解決策4.今まで目を向けていなかった層に目を向ける 

 

 

解決策1.社内の「良い人」を逃がさないようにする

例えば、最近30歳ぐらいの出来る人が辞めていく会社は多いです。山本五十六の名言から

「やってみせ 言って聞かせて させてみて ほめて育てた 部下が退職」 

 という川柳まで出てくる始末ですね。では、何故その方々が辞めていくのか理由は把握出来ていますか?そして、その穴を埋める施策は行えていますか?

当ブログでは、基本的に部下の不満を埋めることを主眼に置いた人事施策はやるべきではない、と言うスタンスですが、企業にとって引き止めが重要になることもあります。 公平性や古い慣習と共に倒産する覚悟があるなら好きにしたら良いですが、そうでないなら理由を検討してみるべきです。

 

 

解決策2.社内の人を育成して「良い人」に変える

次に、社内の人を育成するという方法。当然と言えば当然ですが、

・OJT頼みで研修をやっていない企業

・自社のビジネスに役立たない研修メニューを強制している企業

・業務から学ぶ仕組みを作れていない企業

なんかは結構多いです。自社にとって良い人に繋がるか?という目線で研修メニューを見直してみると良いと思います。

 

解決策3.「良い人」の定義を変える

三つ目は、良い人の定義を変えるという方法です。自社にとって本当に良い人って何?ということを考えるわけです。よく言われますが、リーダーシップとか体育会系出身者とかって、本当に全ての企業で必要ですか?

「無いよりはあった方がマシ」だとは思いますが、必須でないなら採用要件から外してしまって良いはずです。リーダーシップは無いけど技術力はある人を欲しがる企業は多いでしょう。また、押し売り営業に限界を感じてコンサルティング営業に切り替えた企業にとっては、旧来の「押しの強さ」が逆にアダになっていることさえあります。(ヒアリングの方が重要だから)

 

解決策4.今まで目を向けていなかった層に目を向ける

 最後は、今まで目を向けてこなかった層にも目を向けてみると言うことです。要は「健康優良な日本人男性」以外です。女性や高齢者、外国人、障碍者ですね。他社がまだ採用・活躍推進仕切れていない今始めておかないともう遅くなります。そもそも日本人男性でなければ本当に駄目な仕事ってありますか?

 僕は建設業・製造業・卸売業と、やや古い業界で働いてきましたが、今まで一緒に働いてきた人の中で、尊敬できる人って誰かな?と考えると、半分が女性になります。特に、前職で人事制度の企画・運用をやっていたチームで一緒だった後輩の女の子2人に至っては本当に凄かった。”獣になれない私たち”の新海さん、ぐらいでした。そんなに出来る人たちに出会う可能性もあるのに、まだ「総合職は男性」「一般職のことを”女の子”と呼ぶ」というスタイルに拘っているのか、と言うところですね。

 

 

このように、生き残りの為には様々な方法が考えられるわけです。是非、自社にあった施策を行なってみていただければと思います。

wezzy連載 給与額決定の理屈の根本

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Wezzy連載第3弾が掲載されました。

給与の決定方法って意外と知らない人が多くないですか?ということで根本的な理屈について解説してみました。

周りとのバランス?

それとも生計費?

どちらも違います。

 

知りたい方は是非どうぞ~

 

 

wezz-y.com

「世間が人手不足でも!! 優秀な人材を確保できる人事の仕組みと仕掛け」セミナーで登壇してきました。

以前アナウンスしていた、「世間が人手不足でも!! 優秀な人材を確保できる人事の仕組みと仕掛け」というセミナーを大阪商工会議所で行なって参りました。

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有料・冬の寒い時期にもかかわらず、多くの方にお越し頂いたうえ、

4段階での満足度も

満足41%
やや満足54%
やや不満5%
不満0%

と、95%の方にご満足いただけたようで、準備した甲斐があったかなと思います。

 

セミナーでたくさんお話させて貰いましたが、実際に企業の現場でやっていただかないことには意味がありませんので、是非お試しいただければと思います。

 

喋った内容はざっと以下のようなイメージです。

1.「健康優良な日本人の中年男性」だけが活躍している会社は危ない

2.「高い給与を与えれば社員は満足する」の嘘

3.「真面目に頑張れ」の何がいけないのか

4.「増収増益」なのにジリ貧になる?

 

 

*最近更新が滞っていたのはこの準備・・・と、来週やる自社セミナーの為だったりします。・・・忙しい!

 

人事制度とは何か?

前回は、組織目標を達成するために各機能別戦略(ヒト・モノ・カネ・情報)の整合性を取ろうという話をしました。

www.kuchibashi-consulting.work


そして、「人事戦略は、モノ・カネ・情報等の戦略を下支えする戦略だ」と言う風に位置づけました。
具体的には販売戦略や調達戦略、知的財産戦略などを実現するために「どういう人が何人居れば実現できるのか」ということを考えることになります。要するに人の質と量を考えようということです。

 

人事制度は人事戦略に基づいた指針

 

ヒトの量を増やすには?

量を確保するということについて考えるのは簡単です。(出来るかどうかは別として)たくさん人を採用してきて、辞めさせないようにすれば良いと言うことになります。

 

ヒトの質を高めるには?

では、質についてはどうでしょうか?質を上げるためには研修という方法が思い浮かびやすいですが、集合研修以外にも自主的に学ぶ機会を与えたり、自身で学習することを促したり、モチベーションを高めたりと言うことも質の向上に役立ちそうです。
しかし、そもそも「どういう能力をつけて欲しいのか」を明らかにしていないと従業員の学習モチベーションが空回りしてしまうことになりかねません。企業がITシステムのプロジェクトマネジメントの出来る人材を欲しているにもかかわらず、それを明言しなかったらどうなるか。流石にボールペン字とか色彩検定を学ぶなんてことはしないでしょうが、難しいプログラムを書けるようになるとか、ハードウェアの知識は誰にも負けない人になるとかのズレはよく生じます。
東京から大阪に行きたいのに、東北新幹線に乗るような回り道をしてしまいかねないわけです。どれだけ早く進むことが出来たって到着しませんよね。

戦略を立ててもどのように進むかを具体的に落し込んでいかなければ投入した労力は空回りに終わるわけです。

そこで、その指針として人事制度に落し込むわけです。

 

 

人事制度の全体像


人事制度は、等級制度・評価制度・報酬制度の3つの制度から成ります。

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 中でも、等級制度は評価制度と報酬制度の根幹になります。求める人物像は得てして簡単に実現できるものではないので、途中にチェックポイントを設定していくようなイメージです。サッカーを始めたばかりの子供が「日本代表に入りたい」と思っても、道のりが遠すぎて何から手をつけたら良いかがわかりません。なので、○○少年サッカー団に入ってレギュラーを取る・ガンバのジュニアユースに入る・ユースに上がる・プロ入りする・・・というようなルートを設定してあげるようなイメージです。
 
 そして、各チェックポイント(各等級)に居る人に幾ら払うのかを決めるのが報酬制度であり、各等級の中でどんな能力を伸ばすべきかと言うことを示すのが評価制度です。

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 また、各等級に対して求める能力は実務や従業員の自学自習だけでカバー出来ないケースも出て来ます。例えば営業社員や研究開発の社員だと会社の経理的な知識が無くても普段の仕事が出来てしまったりします。しかし、将来会社全体のことを把握しながら販売戦略や研究開発戦略を立てて欲しいとするならば、会計の知識は必須になります。
 そのため、カバー出来ないスキルを育成するための制度として教育制度があるわけです。逆に言うなら、ほっといても従業員が通常業務の中で求めるレベルを獲得出来るようなスキルや、企業にとって必要の無いスキルをわざわざ制度化して教え込む必要は無いわけです。

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次回は「良い制度・悪い制度」について考えてみます。