くちばしコンサルティング

経営戦略を実現する、運用しやすい人事制度構築が得意です。

「バランス感覚がある」「人や物の良いところを見つけることが出来る」ことは強烈な短所にもなる

山本遼

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今日は、一般的に言われている長所が、もしかしたら短所になっているかもしれませんよという話です。

 

 働き方改革については以前以下のような連続エントリで記載しました。

www.kuchibashi-consulting.work

 ホワイトカラー職場こそ製造現場の業務改善のプロセスを真似ましょうという内容です。これはこれで内容的には間違っていないつもりだし、本当にこの通りやってくれるのであれば確実に業務は圧縮されます。

 例えば、業務の要不要を考えるとき、「この業務は本当に何かの効果を得ているか?」という目線で見ます。折角作っていたレポートが実は誰にも読まれていなかったことが判れば、その業務をやめることに反対は示さないでしょう。

 しかし、現実の企業の現場では「見てないわけではない」「ちょっとだけ参考にしている」「無きゃないで誰かが少し困る」みたいな業務が多いわけです。そして、「どんな人やものにも良いところはある」と考えられる人は、このようなちょっとした良いことを見つけてしまいます。あなたの会社で業務削減が進まないのはそのためです。

 そして、「バランス感覚がある」「人や物の良いところを見つけることが出来る」ことが出来る人は、悪意無しに業務のメリットを見つけてきます。それにより、多少のリターンがあろうが費用対効果的が悪い業務のメリットが強調されてしまうわけです。彼らは以下のような言葉を使います。

・この業務を待ってる人も居るんじゃないだろうか
・あったら何かのときに参考になるから
・念のためにやっておいても良いんじゃない?

 

対策

 上記のような症状が起きたとき、まずできる対策は2つあります。

1.業務に価格をつける

 社内での業務ばかりをやっている人は、あまり馴染みが無いかも知れません。しかし、仕事でやっている以上あなたの業務にはいくらかの原価(人件費やPCリース料など)が掛かっているはずです。これを全て計算してみることです。
 人件費であれば、あなたの年収(出来れば会社が負担している社会保険料と退職金積立分、PCリース料も加算しておくと良い)を総労働時間で割って時間単価を計算し、時間単価にその業務に掛かっている時間を掛けて、一つの業務の製造原価を計算します。

 

 例えば年収600万円の人であれば、諸々込みで800-900万円ぐらいになるので、900万÷2000時間=4500円 となります。そして、その業務に月2時間かかっているのなら、4500円/時間×2時間/月×12ヶ月=108,000となります。 

  
 で。「確かに○○という業務には××というメリットがあることは事実だが、108,000でやる価値はあるのか?」と考えてみると、妥当性判断はしやすくなります。

 

2.今その業務をやっていないとして、新しく始めるか?

 断捨離の考え方の応用編みたいなものです。洋服を捨てるかどうか判断するとき、「もしかしたらまた着るかも知れない・・・」となって悩む例は多いです。そうなるといつまで経っても捨てることは出来ません。

 そこで、「今この服を持っていなかったとして、この服がお店に並んでいたとしたら買うだろうか?」と問い掛け、買わないなと思ったら捨てるというルールを設定するわけです。
 業務も同じです。「今、やっている」と考えるから削減できませんが「わざわざ新しく始めるとしてこの業務をやるか?」と考えると、やる業務ってどれぐらいありますか?

 

そもそも何故業務削減が邪魔されるか

 上記に記載したような業務削減が邪魔されるのは、人間には「失うことを嫌がる傾向」と「保有したら高く評価する傾向」があるからです。そして、バランス感覚があり優しい人によってメリットにフォーカスされ、この傾向は特に強くなります。

 

失うことを嫌がる傾向とは

 人間はリスク回避的な考え方をしてしまうので、同じ金額なら得るより失うことのほうを大きく評価するという特性があるからです。同じ100円なら、得るときは100と評価出来るけど、失うときは220ぐらいになるという研究結果もあります。(そのため、勝ち負け半々のギャンブルを持ちかけられても断る人が殆どになります。)

 

保有しているものを高く評価する傾向とは

 また、一度保有したものを高く評価するようになるという特性もあります。皆さんが自身のものを売りに出すとしたら、たとえ中古だとしても世の中の値付けより基本的に高くしてしまうようなものです。中古本を売りに出したとき、思ったより低くて驚いた経験は誰しもあると思います。これについてはハーバード大学のエレン・ランガー教授が実証しています。


 保有している者を高く評価する傾向をイメージするのに最適であり最悪な例として

「自分の子供に値段をつけたら幾らでしょう?」と考えてみるものがあります。

 「値段なんかつけられないよ!」と思った人が大半ですよね。僕もそっち側です。そして、値段がないということは0円じゃなくて∞円を想定しているはずです。

 よりドライな人は具体的に「○○億円以上」などの数値化に成功したと思いますが、それでも市場(なんか無いけど)価格より低く設定することはないでしょう。

 一方で、他人の子供を買うことを考えると(コレも最適であり最悪な例ですね)、割と具体的にコストやらなんやらのことを検討したのではないでしょうか。

 売る時はしないのに、買うとなるとコストの計算をし始める。残酷な考え方ですが人間らしい考え方でもあると思います。

 

まとめ

 

 業務を削減するときは上記の「失うことを嫌がる傾向」と「保有したら高く評価する傾向」を取り去ってやる必要があるわけです。


 どちらも、何となく嫌だ、という気持ちになってしまうのでそこで思考停止します。しかし多くの人は頭が良いので数値化されれば判断できるようになります。10と15のどちらが大きいかということは判断できます。

 (そうはいっても、仕事には産みの苦しみが伴うし、仕事の成果は自分の子供みたいなところがありますが)

 目標を成功させるためには、数値化することは欠かせない、というのはよく知られたことです。そして、これをせずに「廃止すべきか・いなか」の議論をしているから上手く行かないわけです。