くちばしコンサルティング

経営戦略を実現する、運用しやすい人事制度構築が得意です。

目の前の一つ一つに対してベストな方法を取ってきたのに、気付いたら赤字になっていた?

山本遼

 企業の業績を考えるとき、増収増益とか減収減益という言い方をします。売上が上がったか下がったか、利益が上がったか下がったか、これらは業績分析の中でも最初に手をつけるところだからです。

 そして、多くの人は増収か減収かというところにはそれほど興味は持っておらず、増益か減益かの部分だけを聞いて、「増益かぁ。調子が良いんだな」とか「減益なのね。下り坂にさしかかっているのね。きっと。」というようなことを考えるわけです。

 

 経営のプロである経営者の方も、「増益」であることにはかなり拘りを持っている方が多く見られます。自分が就任して1年目に減益にでもなろうものなら、「前任者と比べて出来ない奴」という烙印を押されかねないからです。そのため、多くの企業で増益を志向することになります。

 

極端に増益を指向すると何が起こるか

それを踏まえて、以下の図を見てください。

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 これは、企業が製品を販売し始めてから販売を終えるまでの売上高の推移を表しているものです。最初のうちはあんまり売上に繋がらず、しばらくして徐々にお客さんに受入れられていく。そして、殆どのお客さんが手に取ったころ、徐々に売上高が低下していく・・・。という、製品の人生を表したものです。だからプロダクトライフサイクルとか呼ばれています。

最初の図には、売上高しか書かれていませんでしたが、利益も表すと次のようになります。

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 利益の方は、売上高と少し異なります。まず、スタート地点が違うわけです。最初のうちは製品を開発しなければならないので、赤字が続きます。そして、製品の販売が始まってもしばらくは赤字です。新製品を顧客に知ってもらうためキャンペーンを行なう必要があるからです。そして、しばらくして売上高が徐々に大きくなってきて初めて黒字に転換し始めます。 それからしばらく売上高の増加に伴い、利益も一緒に増えていくわけです。

※一般的な製品では上記のようになりますが、これに該当しない例もたくさんあります。(売上高の山を迎える前に消えるものや、いつまで経っても売れ続けているロングセラー製品など)

 

このとき、既存製品2つが以下のようになっていたとしましょう。

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 どちらも軌道に乗っている状態です。このとき、この2つの製品を持つ企業が増益を目指すなら、取るべき方策は一つです。「今のままの製品を売り続けること」です。新しい製品を開発すると、開発のために利益が減ってしまうわけですから。

 

しばらくして、既存製品達は以下のようになりました。

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 片方の売上高はピークを超えました。しかし、今のままの製品を売り続けた方が、増益になります。

 企業の中でもそろそろヤバイかもな、という話が出てくる頃ですが、新製品開発をしてしまうと赤字転落の恐れがあります。

・・・と、このように、「増益」にこだわっていると新製品開発の為の投資は悪手になるわけです。
理想的な状態は以下のような形で、調子の良い事業から獲得した利益を新しいビジネスの元手にすると言うことがポイントになります。

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陥りやすい短期最適

 上記の例と同様に、「経費削減」は非常に陥りやすい短期最適の例です。確かに、企業や家計は放っておくと無限に支出が増えていきます。そのため、定期的に支出を見直して不要なものは廃止することが非常に重要になります。そして、企業における経費削減は非常に簡単です。以前、経営企画で業績管理をやっていたときは以下のような手順で行なっていました。

・事業部毎に前年実績を下回る形で翌年度の経費計画を立てさせる。
・経費計画は総額ではなく全ての勘定科目毎に設定させる。
・経費計画は年間ではなく月次で設定させる。
・毎月勘定科目毎にトレースを行ない、予算を超過した項目があれば理由をヒアリングする。
・それを役員会などで報告する
以下繰り返し 

  「逃げ道を塞ぎ」「経費予算の超過ペナルティが尋常じゃなく大きい」ように設計したら、嫌でも現場で経費削減するようになります。また、企業規模にもよりますが、非常に非常に簡単に削減できるので、比較的安定した事業環境にある会社であれば、経費削減による増益策は非常に簡単に効果を出すことができます。

 この方法は非常に簡単ですが、技術開発や新規開拓などの投資的な業務は、当初想定していたことと違うことが起こりがちです。それらまで細かく縛り付けてしまうと、柔軟な対応が取れなくなってしまいます。

人事担当者は長期視点で

 このように、短期的な視点で考えてきた結果、長期的にみると苦境に立たされていたと言うことはよく起こります。しかし、日々の業績目標を持たされている企業では中々将来への投資について考えることは難しくなりがちです。

 今回は製品を例にとってお話をしましたが、人材育成でも同じようなことがおきます。例えば…

・管理職が、部下にやらせるより俺がやった方が早いと考えてしまって、業務を任せて経験させることを疎かにしてしまう

・研修に行く時間があるなら現場作業をさせた方が良いと考えてしまい、研修に参加させない・参加させても研修中に内職をしてしまう

 どうしてもこうなってしまう企業が多いので、人事担当者が長期的な視点を持って育成計画を立てていくことが必要になるわけです。

 また、そのためには事業の理解が欠かせません。人事だけの視点で、世間でリーダーシップ研修が流行っているから自社でも行なわなければならない、と考えるのではなく、自社の事業を推進していくためにはこの能力が必要だから、この研修を行なうのだ、という考え方が必要になるわけです。


今日のまとめ

・人事部員は長期的な視点を持つべき
・長期視点を持つためには経営全体を俯瞰して見られる能力が必要