くちばしコンサルティング

経営戦略を実現する、運用しやすい人事制度構築が得意です。

「忙しくて面談の時間が取れないよ」という管理職の悩みに対してどう答えるか

山本遼

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「君たちはどう評価するか~悩みボヤく管理職に逆質問で気づきを促す、評価制度の運用想定問答集~」(2018.06~2018.11号連載)

 

月刊人事マネジメント 2018.09月号

 

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 目標管理の進捗度確認の面談や人事考課結果のフィードバック面談など、人事考課のプロセスに上司と部下との面談を設定している企業は多くあります。面談は上司と部下の認識の差を埋めたり、部下の意欲を高めたり、時には部下の悩みを解消する機会となるなど、数多くのメリットがあります。
 一方で、人事制度の運用が正しくなされているかを確認するためのアンケート調査を行なってみると、面談が適切な時期に行なわれない・面談の時間が短すぎる・そもそも面談を行なっていない、などの回答も多く見られます。

 

「忙しくて面談の時間がとれないよ」

 面談が行なわれない・後回しにされてしまう理由を掘り下げてみると、一番多い理由として「忙しくて面談の時間が取れないから」というものが挙げられました。このような相談に対し「面談までが管理職の仕事なのでしっかりお願いします。」と言ったアドバイスをしても、「それは判っているよ」と言われてしまうことは目に見えています。ではどのように回答すべきでしょうか。

 

相談者の今の状態は?

 相談を受けたときにまずすべきは相手の現状把握です。相談者は「忙しくて面談の時間が取れない」と言っていますので、面談より優先すべき業務があると感じていると考えられます。もしかすると、自身が受け持っている部下の数が多すぎ、物理的に手が回らなくなってしまっているのかも知れません。

 

管理職が目指すべき状態とは?

 管理職には、自部門の成果向上が求められています。そのためには目標を示し、目標達成のためには何をすべきか落とし込むことが必要です。また、必要に応じて組織構成員の能力向上、部下が力を発揮出来るような環境を整えることが求められます。 課題に対して集中力が発揮される(≒生産性が高くなる)ための条件を、アメリカの心理学者ミハイ・チクセントミハイは以下のように定義しています。

・目的を明確にすること
・行動に対して即座にフィードバックがあること
・自身の能力水準に対してタスクの難易度が適切な水準にあること
・価値があると感じられる課題に取り組んでいる     等

  また、管理職が指導・育成をする理由の一つに、指導・育成にはレバレッジ効果(てこの作用)があることが挙げられます。例えば年間2000時間勤務した場合、面談によって部下の能力や意欲が向上して成果が5%でも改善したとしたら、100時間分生産性が向上することになります。毎月1時間ずつ面談したとしても十分すぎる効果です。

 

問題解決の為の方向性

 まずは、部下育成は組織の目標達成のために必要であると管理職が認識することが必要です。そのためには、面談業務の優先順位を上げて貰うことが必要になります。
また、もし部下の数が多くて面談しきれないなら、別の考課者に権限委譲することが求められます。管理職一人あたりの被考課者の数を調整し、考課者が被考課者との面談時間を調整できている状態が必要です。
 ただし、「あなたは部下指導が出来ていないから別の考課者を設定します!」と言ってしまうと、管理職も気持ちの良いものではないでしょうから、管理職自身の口から他の考課者への権限委譲などの提案をして欲しいところです。

 

考課者への具体的な質問例

 ここからは、人事担当者から相談者に対する問い掛けの例をご紹介します。

面談業務の優先度を上げさせる質問例

①「面談をする時間を取るのは大変だとお察ししますが、それで部下の行動が変わってくれるなら安いものだとは思いませんか?」
②「どういった業務に時間がとられて、総括の時間が取れないのでしょうか?」
③「その業務を任せるとしたら誰か代わりの人はいませんか」
④「事前に面談時間を確定してしまってはどうでしょうか?」 

 面談業務の優先度を上げて貰うためには、必要性や管理職自身に取ってのメリットを理解して貰う必要があります。

 ②の問い掛けで、面談の時間を取れない原因となっている業務を洗い出させます。そして、③の問い掛けを行なうことによって、具体的に業務の移管をイメージさせます。どうしても業務移管が出来ないとすれば、それは組織として非常にリスキーな状態であると言えます。業務が属人的になりすぎ、管理職に何かあった場合に組織が直ちに機能不全になることを意味するからです。また、後任者がいないと言うことは管理職自身の昇進の妨げにもなりかねません。管理職の担当業務の中には、承認業務など委譲しにくい業務があるのは事実ですが、こういった機会に対策を行なっていく必要があります。
 また、④のように先に時間を確定させてしまうことで、他の予定を入れられにくくするという方法を用いるのも有効なケースが見られます。

 

考課権限の委譲を促す質問例

⑤「人事考課や面談を別の人に任せるとしたら適任だと思われる人は居ますか?」
⑥「面談をその方に任せたとして部下は納得するでしょうか?」 

  ⑤や⑥の問い掛けで、もし「実際の指導は私ではなく係長が見ているからそちらの方が良いかもしれない」等の回答があるようなら、そちらへの権限委譲が出来ないか検討することが必要です。しかし、下位者になればなるほど特定の部下の業務は詳しく把握出来ても、全体の視点が欠けがちになってしまうことは念頭に入れておく必要があります。

 今回は、時間が無いことを理由に面談を行なわない管理職を例に記載しました。しかし、面談への苦手意識がある為、時間があるにもかかわらず、ついつい面談を後回しにしてしまう管理職も稀に見られます。(その言い訳に”忙しい”という言葉を使ってしまっている)
 そういった場合は、人事からの歩み寄りが必要となります。具体的に部下への面談を円滑に進める方法について、書籍などを参考にガイドラインを示したり、考課者訓練に面談のロールプレイを盛り込んだりすることは有用です。

 

おわりに

 目標管理をはじめとした人事制度は、上手く使えば現場管理職のマネジメント能力を引き上げることが出来ます。そして、現場管理職からの相談は、現場の現状を把握する良い機会になります。

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PDFは以下よりご覧ください。

https://drive.google.com/open?id=138fBdIl3yhRcjA3fXHKUkM5IrXJkxJWp

 

本記事は月刊人事マネジメント様との契約に従い、発刊後1ヶ月経過したため公開しているものです。