くちばしコンサルティング

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製造現場の改善方法に学ぶ 副業をするための時間の捻出法

山本遼

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近代中小企業 2018.06月号

製造現場の改善方法に学ぶ 副業をするための時間の捻出法

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 副業をするためには、現在の仕事や私生活に加えて更に副業をするための時間を確保する必要があります。しかし、時間があまって仕方が無いと思える人は皆さんの中にどれだけいらっしゃるでしょうか。そこで今回は、副業時間の捻出法を考えていきます。

 

夢のような銀行の話

 「毎日86,400円振り込んでくれる銀行がある。このお金をどう使っても良いが、この銀行には繰り越しという概念がないので、引き出して使わなければ翌日にはお金が無くなってしまう。」

 こんな夢のような銀行があったら皆さんはどうされるでしょうか?「明日に繰り越せないなら、毎日全額引き出して使いきっちゃうよ!当たり前じゃないか!」と思われる方がほとんどだろうと思います。
 実は、読者の皆さん全員がこの銀行の口座を持っています。ただし振り込まれる単位は”円”ではなく”秒”です。1日あたり86,400秒が毎日皆さんに振り込まれ、翌日には消えてしまい、また新しく振り込まれているのです。例外はありません。
 このように、お金だと考えているときには、使い切るということを考えられる人が多いのに、“時間”になると有効活用が出来なくなってしまうのでしょうか。

 

人生は選択の連続

 飲みにも行きたいし、遊びにも行きたい。新しいパソコンやゴルフクラブだって欲しい。そういった欲求は誰にでもありますが、1ヶ月に使えるお小遣いは決まっているので、我々は頭の中で、「どうしてもパソコンが欲しいから、飲みに行く回数を減らそうか」「今は周りとの親睦を深めるのが大切だから、買い物は諦めようか」と考えるわけです。
 このように、われわれは毎日、好むと好まざるとに関わらず「片方を手に入れようと思うと、もう片方を諦めなければならない」という選択を強いられています。この考え方のことを経済学ではトレードオフと言います。
 時間も同じです。制限の中で「テレビを見る」「Aさんと遊びに行く」「仕事をする」などの選択を行なっているわけです。

 

選択するということは諦めること

 「何かを選ぶ」と言うことは「選んだ選択肢以外全てを諦めている」とも言えます。テレビを見るということは、資格の勉強をする・ゲームをする・運動をする、などの選択肢を諦めたと言えます。Aさんと遊びに行くのは、BさんやCさんと遊びに行かないということです。残業して仕事をすると決めた場合、家族との時間を諦めたと言うことでもあります。
 もっと考える規模を大きくすれば、あなたは今の会社以外の選択肢を全て捨てて今の会社に入られたのですし、世の中に数え切れない人とは”結婚しないことにした”結果、今の配偶者と過ごしていると言えます。つまり、何かを選ぶということは、やらないことを決めることだと言えます。

 

選択からは逃げられない

 「ならば選択をするのをやめよう」と考える方もいらっしゃいます。しかし、それは「何もしない」ということを選択したのであって、結局副業をする時間を捨てるという選択をしたことと変わりありません。
 「出社準備をする・通勤する・定時内の仕事をする・たばこ休憩をとる・上司に隠れてネットサーフィンをする・残業をする・同僚と飲みに行く・お風呂に入る・寝る」という行動を取っている人は、選択した行動以外の全てのことを諦めてその選択をしているわけです。副業をする時間を確保したいと思うのならば、このプロセスのどれかを諦め、時間を捻出しなければならないということになります。
 時間を捻出するとなると、すぐに睡眠時間を削るとか、余暇時間を削ると言った選択をされる方がいらっしゃいますが、無理をしても身体に障ります。本業や生活を台無しにしてしまうと、何のために頑張って副業するのか判りません。
 何かを犠牲にしなければならないのなら、皆さん自身にとっての価値に繋がらないものから削減していくべきでしょう。どの時間から削減していくべきかを考えるには、工場などでの生産現場で使われている考え方が非常に有用です。

 

どれぐらいの時間が必要で、自分が何に時間を使っているかを知る

 まずは、副業のために一体何時間必要なのかを考える必要があります。1日1時間程度で良いのか、3時間必要なのか。まとまった時間が必要なのか、細切れ時間でいいのか。副業毎に異なりますので、必要となる時間を計算してみましょう。今回皆さんが目指すべきゴールになります。

 つぎに、時間の使い方を見直すためには、自分が何に時間を使っているのかを把握する必要があります。体重や腹囲を計測せずしてダイエットを成功させるのが難しいのと同じです。まずは自分の時間を書き出してみましょう。
このようにグラフ化してみると、自身が何にどのような時間を使っているのがわかりやすくなります。

このような時間の使い方のままでは、時間が確保できません。何から手をつけていくべきでしょうか。

 


ABC分析で優先順位をつける

 ABC分析は、使用している原材料などを多い順に並べ替え、多いグループ順にA・B・Cの3段階に区分し、多いもの=影響の大きいものから削減を行なっていくという考え方です。
時間を捻出するために通勤準備の時間を50%削減しても、もともとの母数が1時間しか無ければ30分しか捻出することが出来ません。一方で、10時間勤務している方であれば10%でも短縮できれば1時間捻出することが出来ます。今回の例では、勤務時間・夕食、団欒の時間・睡眠時間について考える方が、通勤準備や通勤時間を削減するよりも影響が大きいと言えます。

 

減らすか?効率化するか?

 行為にかかる時間は、行為の総量÷作業速度で計算することが出来ます。そのため、時間を圧縮するためには、行為の総量を減らすか、作業速度を上げるかの2つのアプローチで考える必要があります。次章以降でそれぞれの方向性を考えます。

 

ECRSで見直す

 まずは、総量を減らすための考え方です。ここでは、現場作業の効率化のフレームワークであるECRSの原則をもとに考えます。ECRSはEliminate/Combine/Rearrange/Simplifyの頭文字を取っています。主に工場等の生産現場の作業改善で行われているものの一つですが、ホワイトカラー職種(営業や事務職)や家事などの時間効率化にも役に立ちます。各項目には仕事・家事やプライベートでの実例をつけています。もちろんこれだけが全てではありません。参考にして、皆さん独自の改善をして頂けたらと思います。

 

Eliminate(排除)

 不要な作業をなくせないかという目線で行為を見直す考え方です。作らなければならない資料だと思っていたのに、実は誰も見ていなかった・自分が引き継いだ時からやっているのでなんとなくやっている、といった仕事は意外にも多くあります。
 しかし、一見すると不要だと思われた作業が思わぬところで影響していることもあるため、作業の排除をする前に厳密に調査をしておくことが必要です。

【仕事の場合】

・作っていた資料は、誰も読んでいなかったことが判ったのでやめた。
・事務連絡のみのミーティングは廃止し、メール連絡に切り替えた。
・出張していても必ず会社に戻ってくることをルールにしていたが、帰社後の業務はオンラインでも可能であるということが判ったので、ノートパソコンを支給し直行直帰をすすめた。

 

【家事やプライベートの場合】
・晩ご飯は宅配弁当に切り替え、献立を考える・作る・食器を洗うなどの時間を削減した。
・無洗米を使い、お米をとぐ時間を削減した。
・特に親睦に繋がらない飲み会に参加するのをやめた(頻度を減らした)

 

Combine(結合)

 作業と作業を一緒にできないかという目線で考え、異なる作業を同時に進めてしまうという考え方です。結合を実行するためには、タスクを分解して考えることが助けになります。
ただし闇雲に結合をすると質が落ちることがあるので注意が必要です。


【仕事の場合】

・打合せをしてから議事録を書いていたが、打合せをしながら議事録を書くようにした。
・出張する機会にあわせて、別の要件の打合せも行なった。
・顧客への報告メールに上司をCCに入れ、報告を兼ねた。

 

【家事やプライベートの場合】

・風呂掃除は、風呂に入りながら風呂掃除をすることにした。
・毎食ご飯を炊くのではなく、一度にたくさん炊いて冷凍しておき、その都度解凍して使用し、食事の時間を短縮した。
・本は電子書籍で購入し、満員電車の通勤時間でも読めるようにした。
・単純作業は、テレビを見ながら行なうこととした。

 

Rearrange(交換)

 順序の変更はできないかという目線で考え、より効率的な進め方を追求する考え方です。「本当に今の順番でなければならないか?」という視点で考えることが改善点を見つける助けになります。

【仕事】

・出張の方向がバラバラで非効率だったので、出張先の時期と方向を合わせた。
 (北海道出張のついでに東北にも行く など)
・会議をしてから全員に資料を送付するのではなく、資料を送付してから会議をすることで、論点を絞って密度の濃い会議が短時間で出来るようになった。
・生産工程の最終段階で検品を行なっていたが、製品の確認工程を上流工程で行なうようにしたところ、手戻りが少なくなったため、労働時間は短くなった。

 

【家事やプライベートの場合】

・「肉を切る→まな板を洗う→野菜を切る→まな板を洗う」 のではなく、「野菜を切る→肉を切る→まな板を洗う」とする
・「おかずを作る→ご飯をたく→たべる→洗い物をする」のではなく、「ご飯を炊いている間におかずを作り、余った時間でまな板などを洗っておく」として、同時並行で作業を進められるようにした。
・実用書を読むときは巻末のまとめを先に読み、理解できないときだけ本文を読む。

 

Simplify(簡素化)

 複雑な手順で行なっている作業や、過剰に丁寧にやっている作業を簡単にすることで業務の効率を上げるという考え方です。ただし、必要最低限を下回るほど質を下げてしまわないよう注意が必要です。

【仕事】

・メールの返信はテンプレ-トにする(「了解しました」 「ありがとうございます」 「よくある問合せの回答」は 署名として何種類か保存しておき、ワンクリックで返信する)
・社内会議なので内容に注力し、デザインは簡素化した。

 

【家事やプライベートの場合】

・お弁当に冷凍食品を使用することとし、おかずの調理時間を減らした。
・フィンテックを活用し、銀行振込の手間を減らした。
・毎朝どの洋服を着ようか迷わないよう、服装のパターンを決めてしまった。

 

 ECRSは単純にゴロがいいからこの順で呼ばれているのではなく、一般的にはE>C>R>Sの順に削減効果が大きくなります。(せっかくシンプルな作業に改善しても、その作業自体が削減可能だったとしたら、改善した意味が無くなってしまいますから)そのため、ECRSの順に考え、上位概念がどうしても出来ない場合に下位の方策を考えるのがよいでしょう。

 

3.機械に早めてもらう。

 昨今、従来手作業で行なってきた作業をAI・機械学習などの技術を取り入れたロボットに代行させ業務効率化をするRPA(=Robotics Process Automation)などの考え方が注目を集めています。これにより何時間もかかっていた作業が数秒で終わってしまった、という例もあります。
 AIや機械学習というと専門的な知識が必要になりそうですが、我々も手近なところから機械による効率化を導入することは出来ます。例えば、繰り返し作業にはExcelの関数やマクロを使ったり、ロボット掃除機や食洗機を導入したりといったことが該当します。
 機械の導入というと「人がやった方が心がこもるのでは」とおっしゃる方も居ます。私も少なからずその思いを抱くときもありますが、そういった方も蛇口から出て来た水は当たり前のように使い、井戸から汲んできた水を使わなければ心がこもらない、とは思わないのです。
 テクノロジーに対する認識は世代間でギャップがあるということを示唆したダグラス・アダムスの法則というものがありますのでご紹介します。皆さんの中の、機械を使って省力化することへの罪悪感が少しでも薄れれば幸いです。

・人は自分が生まれたときに既に存在したテクノロジーを、自然な世界の一部と感じる。
・15歳から35歳の間に発明されたテクノロジーは、新しくエキサイティングなものと感じられる。
・35歳以降になって発明されたテクノロジーは、自然に反するものと感じられる。 

 

4.さいごに

 時間の捻出を、総量を減らす・同じ作業でも早くする、の目線で考えてきました。今回紹介した方法は全て生産現場では当たり前に行なわれていることですが、ホワイトカラー業務や私生活、家事で使っている方は中々いらっしゃいません。
 生産現場と事務職・家事は一見関係の無い業務のようにも思えますが、お互いに参考になる点は数多くあります。ABC分析やECRS,RPAをご紹介しましたが、両手動作分析やレイアウトプランニングなど、参考に出来る方法は多くあります。本稿が、皆さんが副業をやるにあたって一助となれば幸いです。

 

PDFは以下よりご覧ください。

https://drive.google.com/open?id=1dI0m_XfrkaFaxEr0KqeDBA6wV5oFrVQ7

 

本記事は近代中小企業様との契約に従い、発刊後1ヶ月経過したため公開しているものです。