くちばしコンサルティング

経営戦略を実現する、運用しやすい人事制度構築が得意です。

部下に具体的に仕事をお願いすると、離職率が下がり業績が上がる理由

山本遼

従業員が退職する理由の代表的なものの一つに、「会社が自分のことを評価してくれない」というものがあります。似たものには、「上司は自分のことを観てくれていない」とか「上司がバカだから私の活躍が理解できないのだ」とか、一番マイルドなものでも「上司と価値観が合わなくって」というものがあります。


一方で、経営者や管理職の方からは「ちゃんと客観的に評価をしているんだけど…」という声もよく聞きます。 このギャップは何故生まれるのでしょうか?

 

 

自己評価と上司評価を図にすると以下のようになります。

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つまり、「自分は出来ていたと思っていたのに、上司からの評価が低かった(左下)」あるいは「自分は出来ていないと思っていたのに上司からの評価が高かった(右上)」場合に、不満が高まるわけです。(≒退職予備軍になる)


そして、図で言うと左下の部分に該当すると、先ほど出たような意見が出てくるわけですね。

 

しかし、実際の自己評価は上の図のように半々ではありません。実態に合わせて面積を修正すると以下のようになります。

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考えてみればおかしなことです。素晴らしい仕事が出来ているなら、自己評価と同じように他者評価も高くなるはずなのに、なんでこんなに差が出てしまうのでしょうか?


まず、そもそも自己評価は甘くなりがちだと言うことが挙げられます。

自己評価は甘くなるもの

コーネル大学のダニング博士とクルーガー博士が65名の大学生を対象に、30個のジョークを読ませ、どれほど面白かったかを評価する実験を行ないました。これによって、ユーモアの能力が測れるわけです。

また、これと同時に「あなたのユーモアの理解度は同年代の中でどのくらいに位置していると思いますか」と質問しています。

その結果、ユーモアの理解度成績上位25%以内の人は「上位30%程度にいる」と評価したのに対し、成績下位25%以内の人は、平均して「上位40%程度にいる」と評価したという結果が出ました。
つまり、成績が下の方の人ほど、自己評価が甘くなっていると言うことが判ります。

 

また、「あなたの運転スキルは平均と比べて上か下か?」ということを聞いた実験もあります。70%の人が「私は平均より上」と答えたという実験結果まであります。冷静に考えてみれば半々にならなければおかしいはずの調査であるにも関わらず。

まあ、運転していて、下手な人は目に付きますが上手い人にはお目に掛かったことがありませんので、そう思ってしまうのも仕方ないのかなと思います。

 

その他にも、「今から上げる人は、死後天国か地獄、どちらに行くでしょうか?(天国か地獄かしかないとする)ジョージ・ワシントン / マザーテレサ・・・」という調査で、2位のマザーテレサを圧倒的大差で上回ったのが「me」だったという話まであるぐらいです。どんだけ聖人だらけなんだアメリカ!その割には(自主規制)!!!

 

要するに、自己評価なんてものは当てにならないわけです。

 

何故自己評価は甘くなる?

じゃあ、なんで自己評価は甘くなるのか、ということを考えるのにモッテコイな実験結果があります。


行動経済学者のダン・アリエリーが、以下のような実験をしました。
・二人組で実験を行なう。
・二人組の片方には詳細な説明書を渡して、折り鶴を作らせる。
  もう片方は、その様子をじっと見ているだけ。
・片方が作り終わったら、ダン先生に提出。
 ダン先生は「その折り鶴に値段をつけるとしたらいくら?」と二人に聞く。

すると、以下のような結果が出ました。

 

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作った人の方が高い価格をつけた訳です。 これは自己評価が基本的に甘くなるというのと一致します。

 

次に、もう一つ実験をしています。

・二人組で実験を行なう。
・二人組の片方にはわかりにくい説明書を渡して、折り鶴を作らせる。
  もう片方は、その様子をじっと見ているだけ。
・片方が作り終わったら、ダン先生に提出。
 ダン先生は「その折り鶴に値段をつけるとしたらいくら?」と二人に聞く。

 

すると、以下のような結果になりました。

 

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当然ながら、鶴は出来の悪いものが出来ますよね。作り方を知らない人が雑な説明書で折るわけですから。だから、観ていた人は値段を下げた。なのに、作った人は詳細な説明書きの時に比べて値段が上がってしまった、という。

 

なんでこんなことが起ったかというと、「作った人は成果+努力で判断した」のに対して「見ていた人は成果だけで判断した」からだと考えられます。

つまり、自己評価では勝手に努力に対する加点をしてしまうから甘くなるわけです。

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じゃあどうするべきかというと、「求める水準」を最初に明確にして、上司と部下とで合意しておけば、こういうことは起きないわけですよね。


で、求める水準を決めるのは誰か、というと発注者側に決まっていますよね。だいたいどんな仕事でもそんなもんでしょう。 上司と部下という関係になったら突然暗黙の了解が働くとか、そういうことはありません。夫婦関係ですら、相手に何も言わずに察してくれることってありませんよね。

それでも察して欲しいという上司の気持ちも判らんでは無いですが、今までそういう考えでやってきたから離職が多かったんですよね。であればやるべきことは一つです。「ちゃんと伝える」ですよね。

 

で、仕事を依頼するときのポイントを最後に紹介しておきたいと思います。
それは「数値化すること」です。

 

お願いしても行動は変わらないが、数値化すると行動に繋がる


最後に、アメリカの木材運搬会社の調査結果について少し。運搬会社のトラック運転手が、木材を最大積載量の60%しか積んでいなかったため、会社としては積載率を向上をさせたかった。

そこで、以下2つの実験をしています。
1.「積載率をあげて欲しい」と依頼
2.「積載率を94%まであげて欲しい」と依頼

すると、1の方は積載率に変化は出ませんでした。60%のまま。むしろ張り紙分の無駄。
一方で、2の方は90%まで上がりました。

このように、数値化すると「どれぐらい行動すれば良いか」が判るので、具体的な行動に繋がりやすくなるわけです。

もちろん、目標の下手な数値化は目標の為の目標を生みますが、数値化出来るものはなるべくした方が良い。 ということです。

 

目標設定をちゃんとするには数値化が必要!と言われるのもこのためです。

 
おさらい


・人間の自己評価は「成果+努力」で判断するから、基本的に他者評価より甘い
・自己評価と上司評価のギャップを理由にした退職を防ぐためには目標を明確に合意しておくことが大切
・目標を明確にしておけば行動につながり、業績向上が見込める 

 

中小企業診断士・人事コンサルタント 山本遼